「お前…… お前ってさ。いつも誰かに抱きついたり、抱きつかれたりしてんの?」 眉間に皺を寄せた前柴先輩は、俺の手を振り払おうとはしなかった。 その代わり、また機嫌の悪い怒ったような顔に戻ってしまい、俺を見下ろしている。 俺はというと、布団の中から慌てて先輩の手首を掴んだために、腹這いの無理な体勢になってしまい、ベッドからずり落ちそうになったままだ。 我ながら間抜けな格好だと内心叫び出したい衝動に駆られたけれど、それよりも先輩の言葉に不安を覚えた俺は、彼を見上げて恐る恐る言った。 「お、俺、誰にでも抱きついたりなんかしませんよ」 「嘘だ。昨日グラウンドで、佐々木に抱きつかれて嬉しそうな顔してた。他の奴らも、お前の背中とか腰とか触ってたし」 即座に非難めいた口調で反論されてしまい、首を傾げてよく考える。 えーっと。 先輩が言っているのは多分、昨日のソフトボールの試合の後のことだろう。 俺がエラーしたせいでうちのクラスは負けてしまい、自分の余りの不甲斐なさに背中を丸めて昇降口へと戻る俺を、皆がからかったり慰めたりしてくれていた時のことだと思う。 「ああ、あれはほら。俺があんまりしょぼくれてたから、皆が面白半分に背中を叩いてたっていうか……」 「でも佐々木に耳元で何か囁かれて、笑ってた」 「ああ、あれは佐々木が自信満々で、次は俺がエラーしても大丈夫なように、あいつが沢山点を入れてやるからって。可笑しいでしょ」 「口ではそんなこと言っておいて、誰にでもベタベタ身体を触らせやがって。お前は俺と付き合ってるんじゃなかったのか。俺ひとりで舞い上がってて、馬鹿みたいだ」 「え?」 先輩が舞い上がってるって…… 「もう手、離せ。学校に戻る」 部屋から出ていこうとする前柴先輩の腕に、力が入る。どうやら俺の手を振り解こうとしているらしい。 俺は行かせまいと、先輩の手首を強く握り返した。 「イタッ、痛いって」 「す、すみません」 痛いと言われて反射的に手を離してしまったので、俺は急いでベッドから起き上がると先輩の前に回り込んだ。 「せ、先輩待って。待ってください。今のって」 「俺が勘違いしてるのならそう言ってくれ。迷惑なら、もう朝も迎えに来ないから」 「迷惑だなんてとんでもない。あの、確認なんですけど。先輩の言ってる付き合うって、俺をただの後輩としてじゃなくて、その…… 俺と、普通は男子と女子が交際するのと同じように付き合ってくれるってことで、いいんですよね?」 「他にどんな付き合うがあるんだよ」 立って向かい合うと、俺の胸辺りに顔がくる前柴先輩は、ハッとしたようにこちらを見上げた。 「やっぱり俺、勘違いしてるのか? お前が付き合ってくれって言うから、てっきり……」 「ちが、違います! いえ、違わないです! ……あれ?」 「どっちだよ」 先輩の眉間に再び寄る、幾つかの皺。 |