季節外れの、まるで嵐のような雨が吹き荒れた週末だった。それでも夜が明けた日曜の朝には、天気予報で言っていた通り、雨は止んでいた。 早朝6時。 大志は、洗濯物がいっぱいに詰まった大きなカゴを抱えて、庭に降りる。昨夜のうちに洗濯機のタイマーをセットしておいたおかげで、溜まっていた洗濯物は既に洗い終わっていた。 東の空を見上げてみたが、折り重なって続いている隣近所の屋根のせいで、昇ってくる太陽を確認することはできない。その代わり、自宅の庭から見える範囲の空は白く明るく輝き始めていて、今日は晴れるぞと主張しているようだった。 11月も半ばを過ぎたというのに、やけに暖かい。ただ、今晩から真冬並みに冷え込むという予報が出ているので、そろそろあの人のダウンジャケットを出しておいた方がいいだろうかと、洗濯物のシワを丁寧に伸ばしながら、大志は考えていた。 黄緑色のダウンジャケットは晴のお気に入りで、去年の冬はそればかりを好んで着ていたから、ひょっとするとどこか綻んでいるかもしれない。 クリーニングから戻ってきた時点で確認はしたのだが、二十歳を過ぎているというのにちっとも挙動の落ち着かない晴のことだ、どこか狭い所にでも潜り込んで、ジャケットの首の後ろか脇か、目につかない部分を破いているかもしれなかった。 大志の兄である晴は、いつも元気で屈託が無く、まあ言ってしまえば22才という年の割に、子供っぽいところがある。 特にお洒落に興味のない彼は、大志が洗濯して畳んで用意しておいた服を、頓着せずにそのまま着替えて仕事に出掛けていく。 黄緑色のダウンジャケットは、色が気に入っているようだ。 晴はどちらかというと、洋服以外の物でも明るい色合いの物を好む。 それにしても―― 「なんだ、これは」 考え事をしながら手を休めず動かし、残り少なくなったカゴの中から薄手の布を1枚取り出した大志は、それを目の前に広げて翳してみた。 派手な柄の、ボクサーパンツだ。 ウエストのゴムの部分は黒色だが、その下は目も覚めるようなショッキングピンクだった。全体に、大きめの黒い音符が散りばめられている。 大志には買った覚えが無いので、大方晴がバンドのファンからプレゼントされた品だろう。 自分ではない誰かが選んだ物を、それも下着を、晴が身に付けることには抵抗があり癪に障る。 しかし、無名のインディーズロックバンドのボーカルに、わざわざファンが贈ってくれたプレゼントは、晴にとっては嬉しく大切な品だろう。 「これからは、頻繁にコイツを洗うことになるんだろうな」 187センチの長身でそれに見合うガッシリした体型の大志からすると、よくこれで収まるなと思うほど小さな、ボクサーパンツ。 パンパン、と軽く叩いてシワを伸ばすと、最近気に入って使っている洗剤の花の香りが、雨上がりの湿った夜明けの空気の中、ふんわりと漂って大志の鼻孔を優しく擽った。 2011.11.23 *11/22“いい夫婦の日”に因んで書きましたが、どちらかというと“いい妻の日”みたいになりました。ここで大志が晴のパンツの匂いをスーハーして「へへっ」とかニヤケてくれれば即、NG集行きなんですがね(笑)堅物タイシ、惜しい男です。 |