友情とか
「なあ俺、先に帰るから」
俺なりに、気を遣ったつもりだった。
放課後ふたりで立ち寄った本屋の、音楽雑誌が並んでいる通路で偶然出会ったのは、他校の生徒。
「おー、久し振り。お前もこの雑誌買いに来たんだ」
「そうだよ。これ、今日が発売日だものね」
そいつ、前にお前が言ってた『音楽の趣味が合う同じ中学の友達』だろ?
久し振りに会ったんだ、積もる話もあるんじゃ、ねーの?
それなのに、別れを告げてさっさと本屋の出口に向かおうと歩き出した俺の手首を、どうしてそんなに強く握るんだ。
「ちょっと、待ってて」
呆れたことにこいつは、それじゃあね、と古い友人に冷淡に挨拶すると、俺の手首を握ったままレジに行き会計を済ませて、一緒に本屋から出てきてしまった。
「よかったのかよ、久し振りに会った友達放っといて」
俺は気になって、後にした本屋を振り返りながら訊いてみる。
「いつも言ってるよね。僕は普通の友情とかじゃなくて、君の特別な愛情だけが欲しいんだって。それ以外は要らないよ」
「……ゆ、友情とかって簡単に言うな。友達は大事にしなきゃ、駄目だろ」
空いている片方の手首は、まだこいつに握られたままだ。
俺は仕方なくバッグを肩に掛けている方の手で、赤くなってしまった自分の顔を隠そうと試みる。
案の定、手で顔を覆ったと同時に学校指定のそのバッグは、俺の肩からズルッとずり落ちた。