残りの3人が彼を見ると、 「こんなのって…… こんなのって、ないよ」 亮太はギターを握り締めたまま、今にも泣き出しそうな顔をしていた。 「やっとギターを止める決心がついたって時に。どうして今更」 「リョウ?」 亮太の震える声を聞いて不安を覚えた晴が、彼の名前を呼んだ。 彼は泣き笑いの中途半端な表情を浮かべながら、晴の目を真っ直ぐ見返して次に高遠を見、最後に小笠原の顔を見て言った。 「ボーカルはバラードの時と違って迫力ある歌い方するし、キーボードは自分のパートの他にベースの代わりまでこなしてるし、ドラムは…… なンだよ、智兄の叩き方そっくりじゃん。こんな凄い演奏聴いちゃって、今更止められなくなるようなことしちゃって…… 俺、どうしたらいいの?」 「止めなきゃいい」 亮太の哀しい告白に、小笠原の強い意志を持った声が被さる。 「え?」 「止めたくないなら、止めなきゃいい」 「でも、俺の親が」 ここで小笠原は、ドラムスローンからスックと立ち上がった。 「お前さぁ、そうやって親の言いなりになって一生、生きてくつもりかよ。そんで親が自分より弱いヨボヨボの老人になった頃『お前らのせいで俺はやりたいこともやれずに生きてきたんだ』とでも言うつもりか? ハッ、くだらねぇ」 「ちょっと義光、何もそんな言い方しなくても。それに中学生を煽ってどうすんのよ」 高遠が小笠原のきつい言い方に割って入った。 「だってそうだろ? テメェの人生だ。親の為に生きるんでも、誰の為に生きるんでもない。自分の為に生きるんだ」 高遠にたしなめられても、小笠原は怯まない。 高遠はそれ以上何も言うことができなかった。何故なら小笠原のこの考えは、彼自身の考えでもあったからだ。 小笠原は外見が優しそうに見える分いつも何かと得をしているのだが、思ったままを口にする時の彼は攻撃的で、迫力があった。そして彼特有の嫌味っぽい言い方と相まって、的確に痛い所を突かれた相手は言い負かされてしまい、かなりの確率で黙ってしまうことが多いのだ。 年上や同級生でさえそうなのに、しかし小笠原よりふたつ年下の亮太は、彼の言葉に負けてはいなかった。高遠が驚いたことに、亮太はキッと小笠原を見返して、反論したのだ。 「お兄さん…… オガ先輩はそう言うけどね。俺の親を見ても、同じことが言える?」 「お前の親の、何をだよ」 自分の意見に対して言い返されること自体が稀なため、小笠原もむきになって訊き返す。 「普段は優兄の話なんて絶対しないのに、俺の父ちゃん仕事が休みの日は、1日中仏壇の前にボーッと座ってる。母ちゃんは風呂掃除してる時、洗剤を洗い流すシャワーの音で誤魔化しながら泣いてたり、台所でキャベツの千切り刻みながらこっちに背中向けて泣いてるんだよ。そんな父ちゃんと母ちゃんに、俺は学校で無視されてるとかギターが弾きたいとか、アンタ平気で言えンの?!」 小笠原に向かってそう叫んだ亮太の目から、とうとう大粒の涙が溢れ出した。 優太の葬式から1年半もの間泣くことができなかった亮太は、1度泣き出してしまうと涙が堰を切ったように次から次に溢れ出し、もう自力では止めようがない。 そのうち、 「うわーん」 と、大声を上げて泣き続ける彼を心配して近付いて来ていた晴までが、 「オガ先輩がリョウを泣かせた。うわーん」 と亮太の横に並んで同じように泣き出して、小笠原を慌てさせた。 |