「あーもう、面倒臭ぇ。ハル、俺のことはオガ先輩と呼べ。いいな」 「オガせんぱい?」 「そうそう。先輩っていうのは、自分より年上の人のことな。もう一回言ってみな」 「オガ先輩!」 小笠原の話し言葉に大分耳の慣れてきたハルが、得意気に彼を呼ぶ。 小首を傾げ自分を見上げた幼い姿が、これから咲かんと綻び始める花の蕾を彷彿とさせ、小笠原は堪らず呻いた。 「くぅーっ、いいっ! おいタカ、今の聞いたか? ハルが俺のこと、先輩だって!」 「自分で呼ばせた癖に。このエロ魔人」 「何だよっ。お前だって、タカ先輩って呼ばせりゃいいだろ。幾ら下の名前で呼ばれたくないからって、タカトーじゃあ色気ゼロだぜ。だけど女の子でもこんだけ可愛けりゃ、意外といいもんだな」 「え? あの、義光」 小笠原の勘違いを正そうと高遠が口を開くが、興奮中の彼の暴走は止まることを知らない。 「俺、今まで女には全く興味無かったけど、うん、ハルならいける。こいつさ、あと六年くらい? 高校生になったら、どんだけ別嬪さんになるだろな。ちょっと楽しみかも」 「だからあの、義光」 「そうだ! お前の芸能プロダクションのモデルか女優にしろよ。モデル兼女優でもいいけど。第一号がこれなら、事務所にも箔がつくってもんだ」 「ねえ、わたしの話を」 「その頃、俺達のバンドもデビューしてたりしてさ。同じ事務所のバンドマンと女優の恋。 ……何か良くね?」 「だから義光」 「もー、何だよさっきから。それともお前は社長の立場だから、タレント同士の恋愛は困るってか」 「男の子よ」 「は、何?」 「ハルは男よ。驚いたわ。アンタほどのエロでも、見分けがつかないのね」 「……オトコ?」 小笠原は、隣に座っているハルをまじまじと見つめる。 自分が二人の話題の中心になっていることに気がついていないハルは、おしぼりで手を拭い、「いただきます」も済ませて、泉が作ってくれた美味しそうなサンドイッチに、手を伸ばしたところだった。 「これが…… 男?」 言うが早いか小笠原は、ハルの手首を右手で掴み小さな後頭部を左の掌で支えると、足をなぎ払ってブルーシートの上に押し倒す。 高遠が止める間も無いほどの、素早く慣れた動作だった。 押し倒されたハルはというと、ひっくり返った拍子に放してしまったサンドイッチが、あらぬ方向に飛んでいくのを目で追いながら、 「あーん、サンドイッチー」 と、暢気な声を上げている。 「ハル、お前ホントに男なのか? 確かめさせろ」 「止めなさいよ、義光」 小笠原は高遠が慌てて制止するのも聞かず、神妙な面持ちでハルの華奢な身体をまさぐり出した。 ただハルはこの日、白いふわふわの毛糸のセーターの上に分厚いジーンズ生地のオーバーオールを履いていて、簡単には脱がすことができず、小笠原が服の上から触るだけに留まったことは、不幸中の幸いだったと言えよう。 上から順番に身体をまさぐられ、くすぐったさに耐えかねて、キャッキャと笑い声を上げていたハルだったが、そのうちに小笠原の手が自分の足の間にまでしつこく這ってくると、さすがに、 「いやーんもう、エロさわらー」 可愛らしく身を捩る。 そんなハルの仕草に気を良くした小笠原は、 「上等じゃねぇか。ハルお前、今ちゃんと意味分かってて言っただろ」 どこかのエロ親爺のように、鼻息が荒くなる。 |