花集ウ 2

 一方の小笠原は、八才の時にできた双子の弟妹のおしめを替えていて、妹の足を広げても特に何も感じないのに、弟の可愛らしい小さなモノを見て自分の大事な一物が勃ち上がり、ゲイであることを自覚したという、本当なのか冗談なのか分からない逸話を自慢気に話す、生粋の同性愛者である。
 こちらも中学入学と同時に周囲にカミングアウトし、学校では浮いた存在だった。
 但し小笠原の『浮く』というのは、高遠とは少し違う。
 小笠原はテストの成績が常に学年上位トップ3に入り、意外に器用で何でもそつなくこなし、運動神経も悪くない。性格も社交的で、話し好きであった。
 なまじ頭が切れるために、要らぬことまでずけずけと言う癖に、見た目の良さと笑うと顔に皺が寄る優しげな風貌に惑わされ、ゲイだとカムアウトしているにもかかわらず、彼の虜になる男女は後を絶たなかった。
 一説によると、小笠原に告白する順番待ちの女子が、教室の扉の前に列をなすとか、小笠原が住む団地内の公園で、近所の男子高校生とキスをしていたとか、中年の男性教師が熱烈なラブレターを贈ったとかいう噂が、常に飛び交うような浮き方である。
 高遠はしっかりしていて女の子らしく、良く気がつき真面目な委員長タイプ。
 小笠原は少し斜に構えたアウトロータイプであり、もしこの二人が同じ学校のクラスメートだったとしたら、絶対に友人にはなり得なかっただろう。
 それが幸か不幸か、住んでいる場所が離れていたために別々の学校に通っていて、最初の出会いが同級生としてではなくゲイ仲間(高遠の場合は少し違うかもしれないが)としてであったので、友人として合う合わないよりも、音楽の指向性は同じだが性格の違いから役割分担をキッチリと分けることができる、バンドを組む仲間としては相応しい相手だったのだ。
 ただひとつ、小笠原が病的と言って過言ではないくらい、気に入った男性に手当たり次第触手が伸びることを除いては。
 それはもう、下は同年代の中学生から、上は上限無しに。
 如何せん小笠原は男の上に乗る立場なので、入れる穴さえあればいいのかもしれないと、高遠が呆れる程だった。
「あー、それなんだけどさあ。俺、昨日、臼井に振られたんだわ。アイツもう、ここには来ねえと思うよ」
 二人と同じ年の臼井は、高遠率いるバンドのギター担当で、小笠原とは同じ中学だ。
 大柄な彼らとは違い、中学三年生の平均的な体つきで、どこといった特徴の無い顔をしていた。性格もどちらかと言えば大人しく、物静かだ。
 臼井はつい二ヵ月前の中学の文化祭が終わった頃に、小笠原に連れられてバンドに入ったばかりだった。しかもギターに触ったのさえ昨日今日のような、ド素人だ。
 そうか、彼はいつの間にやら小笠原と恋仲になっていたわけだ。
 いや、臼井の場合は、それ以前に小笠原のお手付きだったのかもしれない。
 男同士だということは抜きにして、バンド内恋愛禁止などという野暮なことを言うつもりは、高遠には全くない。
 逆に、恋をすることによって得られる高揚感や人に優しくできる気持ち、それとも想いが通じない時の焦れったさとか、沈んでいく心の内が演奏する音に表れるのなら、良いことではないかと考えている。
 しかしこの目の前の、タレ目エロ魔人だけは別だ。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!