花繋グ 11

 タイシはこの時既に身長が百八十を越えていた。
 小学生の頃から舞台背景を描くだけでなく、企画オブシディアンの人手の足りない舞台美術全般の力仕事もこなしてきたので、程よく筋肉が付き体つきも均整がとれている。
 そして目や口が大きく、男らしい精悍な顔立ちだ。
 実はヘタレの中身はどうあれ、黙って立っていればモデルか俳優にもちょっといないようなカッコ良さでとても十六には見えず、外身は誰が見ても申し分がなかった。
 たまに一緒に乗る電車や“エメラルド”のお客さんや従業員、それとレストランに出入りする音楽仲間の中には、タイシをチラチラと、或いはポーッと見ている人が男女を問わずいることは、ハルも気がついていた。
 自分も自分と一番仲のいいユウイチも、その中に含まれていたからだ。
 ユウイチとは食べ物や洋服や好きな色など殆ど全ての物の好みが同じなので、彼がタイシを見ていることに気がついた時は、それはそうだろうと妙に納得してしまったくらいだ。
 但しハルとユウイチの名誉のために言っておくと、二人はタイシのヘタレ具合の全貌を知っているので、単純にタイシの外見にポーッとなっていたわけではないのだが。
 日本に来て初めて通った学校で、結局ハルはバンド仲間のリョウタ以外には友達らしい友達ができず、例えば仲の良い奴に「俺、隣のクラスの〇〇さんが好きなんだけど」と、恋愛の話を聞かされたことが無い。
 または修学旅行に行った夜、部屋に見廻りに来る先生の目を盗み、布団の中で好きな女の子の話やファーストキスの話などで盛り上がるという、日本の学生が一度は身に覚えがあって当たり前の経験をしたこともなかった。
 中学高校と二度チャンスがあった修学旅行は、いくら学業を優先していた“オブシディアン”のバンド活動でもこういう時はタイミング悪く重なるもので、断ってしまえば次の仕事が二度と貰えないというようなオファーが舞い込み、仕事を優先するしかなく行くことができなかったのだ。
 十三才から毎日の大半をずっと共に過ごしてきた高遠と小笠原はカムアウト済みのゲイで、彼らの恋人は当然のことながら男性である。
 それを不思議にも思わず受けとめていたハルには、まだ一度も経験したことがない恋愛は男女間でするもの、という認識が全く無かった。
 ハルにとってタイシを好きになるのに引っ掛かりがあるとすれば、それは彼が男だからでも年下だからでもなく、血は繋がっていなくても自分の弟である、ということだけだったのだ。
 とはいっても兄弟だということは、ハルだけでなくタイシにとっても重大な問題ではあったのだが。
 タイシに手を引かれ、彼の大きな背中に隠されてレストランの裏口を出たハルには何も見えていなかったので、小笠原に後日聞かされた話によると――



*****



 バックヤードの長い通路を歩いてきたタイシは、ひと目で怒っていることが分かる顔をしていた。
 長い前髪から見え隠れする目付きがすこぶる悪く、タイシの顔を伺った小笠原はこりゃヤバイ、と感じた。
 ハルを怖い目にあわせた眼鏡オヤジを、殴りにきたのかと思ったのだ。





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