そんなハルに十五の時、父さんと呼べる人ができた。 今日からこの人がお前の父親だとウイから紹介されたタイセイは、背が高くスラリとしていて、顔立ちのはっきりした日本人だった。 ハルの本当の父親と、雰囲気がどことなく似ているという。 このニコニコと笑顔を絶やさず優しそうな人の年が、二十九だと聞いて驚いた。 一緒に連れてきた義弟になる子供は、十一才だそうだ。 ハルが指を折って年の差を数えていると、 「この子は僕が十八の時に生まれた子なんだ」 と、タイセイが言った。 彼ら二人は良く似ていたので、実の親子で間違いはないようだ。 因みにげんこつで殴られそうだが白状すると、母親のウイはこの時、四十才だった。 父親というよりは兄に近い年のタイセイを父さんと呼んでいいものか迷い、ハルが遠慮がちにそう訊くと、 「勿論」 と、返事が返ってきた。 「じゃあ、あの…… 抱きついてもいいですか?」 ハルは嬉しくなって、父親にずっとしてみたかったことを思い切って訊ねると、最初少し驚いたように眉を上げたタイセイだったが、それでも自分に向かって両腕を広げてくれた。 「どうぞ」 笑ったタイセイの顔が惚れ惚れするほど男らしくカッコいいと思って見上げたことを、ハルは忘れられないでいる。 そんなわけで二十二になる今でも、父親が家に帰ってくると彼に抱きつく習慣が抜けないのだ。 父親のことがあまり好きではないらしいタイシが、自分がタイセイに抱きつく度に良い顔をしないことは分かっているのだが、折角家族になってもタイセイは絵を描くために旅行に出かけてしまい、家にいない日の方が多く滅多に会えないのだから仕方がない。 そして今年で三十六になる父親は、いつ会っても相変わらず笑っていて、顔はキリッと端正で格好が良かったのだった。 そのタイセイの胸は広いのだが、今ハルが頭を預けているタイシの胸も同じくらい広かった。 義父さんだと抱きついても恥ずかしくも何ともないのに、タイシだと妙に気恥ずかしいのは何故だろう? そういえばこのあいだ小笠原に抱きしめられた時も、本当にただ嬉しくて幸せだと感じ、ほんわりと胸の辺りが暖かくなったのだった。 そんなことをソファーに足を投げ出したまま上半身だけタイシにもたれるような姿勢で考えていると、彼の両腕が自分の背中にそおっと回り、えいっとばかりに抱き寄せられた。 キュッと優しく抱きしめられ、タイシの広い胸の中にすっぽりと収まって、ハルは再びドキン、とする。 溢れかけていた涙は止まったが、胸がほんわか暖かくなるどころではない。 抱きしめられていると自覚すると、全身はカーッと熱くなり心臓がドキドキと脈打って、今度は憎まれ口を叩くこともできない。 何か喋ればその前に、口から心臓が飛び出してきそうだった。 ***** ハルが自分はタイシを好きなのだと気づいたのは、実を言うと結構最近のことである。 タイシに初めて会った時、ハルは彼のことを黒い猫だと思った。 人間に傷つけられ、人を見ればフーッと毛を逆立て威嚇する、まだ子供の黒猫。 [*前へ][次へ#] [戻る] |