この気持ち 終

「いよっ、御両人!」
「プレイボーイもとうとう年貢の納め時か」
 皆が盛り上がる中、頬を赤く染めた祐一が恥ずかしそうに、小笠原に頭を下げる。
「じゃあ、あの、オガ先輩。お友達から、お願いします」

 …………
 …………
 ……祐一、
 ……どんだけっっ!

 うんうんと、温かい笑顔で二人を見守っている晴とコック長を除いた他の仲間達はピタリと動きを止め、心の中で声高らかにツッコミを入れる。
 さすがは県内屈指の有名私立高校に通う学生だけのことはある。
 あの小笠原相手に、それを言うとは。

 侮り難し、祐一。
 
 皆が心配した通り、祐一の言葉を聞いた途端、小笠原は眉間に皺を寄せ声を大きくして言った。
「はあ? 友達だぁ? おい祐一、ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ。こっちはお前をモノにするために、一年も前からナニを我慢してんだ。今まで我慢した分お前を恋人にした暁には、あんなことやこんなことをヤリたい放題ヤリまくって―― イテーッ!」
 最後までは言わせないわと、高遠が落ちていたトイレスリッパで小笠原の後頭部にスパーンと、渾身の一撃を食らわす。
 小笠原が痛みに耐え切れず自分の頭を抱えたことで、握られていた手が離れ自由になった祐一は、ヒッと喉をひきつらせ慌てて小笠原から飛び退いた。
「ま、松浦。やっぱやだ。何かよく分かんないけど、僕、オガ先輩やだ。告白されたら返事は普通、『お友達から』でしょう?」
 大志に助けを求めるが、彼は小笠原の発した下品な言葉を聞かせないよう後ろから晴の両耳を塞いだまま、非常にしぶーい顔をして黙って祐一をみつめ返してくる。
 その顔が、
「今井、諦めろ。男は諦めが肝心だ」
と、言っているようで。
「何で!? 何だよ松浦まで。ちょっと松浦、黙ってないで、助けてよっ!」
 半泣き状態の祐一。
 そこへ痛みから復活した小笠原が、
「祐一、お前はまた松浦、松浦と。お前は俺のモンだ、大志には渡さんっ!」
 目をギラつかせた狼さながら、迫って来る。
「僕は物ではありませんっ。先輩の嘘つき! 怒鳴らないって言った癖に!!」
「こんなもんは、怒鳴るうちに入らん!!」

 ギャーッ、と叫んで通路を逃げ出した何も知らない哀れな童貞が、百戦錬磨の男たらしに捕まるまで、あと3、2、1…… で、ある。


*****


 小笠原が祐一のために書いた恋の歌は、レストラン“エメラルド”から徐々に巷に浸透し始める。そして地元のラジオ局で繰り返し流された後、その年の蝉が煩く鳴き出した頃には、有線放送のインディーズチャンネルでよく聴かれるようになっていた。
 その陰に、ギャーッと叫んだ一般人、今井祐一がいることなど、世間の人は知る由も無い。



2010.03.14
改訂 2010.09.17
再改訂 2011.05.21
再々改訂 2012.11.26





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