「晴……」 知らず、口元が綻んでいく。 そんな風に思っていてくれたのか。 小笠原は自分の胸に空いていた穴が、塞がっていくのを感じていた。 幸せという感情でゆっくりと満たされて…… 満たされて穴は塞がり、それでも止まずに幸せが胸から溢れ出し、この満足感といったらどうだ。 小笠原は、優しい気持ちで祐一を想う。 晴からもたらされたこの気持ちで、祐一を包んでやりたいと。 「だからユウイチにはごめんじゃなくて、ありがとうってホントは言いたい。ありがとう、お前がいてくれて俺、幸せだって」 晴の家の前に車を停めサイドブレーキを引いた小笠原は、暫く言葉を発することができなかった。 晴も車から降りようとせず、黙ったまま膝を抱えている。 「晴、祐一は俺に任せろ」 そんな彼に、心に思ったまま小笠原が言った。 「俺が祐一を幸せにする。大志のことなんて忘れさせてやる。だからお前は祐一を気にせず、大志を甘やかしてやってくれ。お前じゃなきゃ駄目なんだ。あいつにはお前しかいないんだから」 「先輩には…… ユウイチしかいない?」 「ああ。俺には、祐一だけだ」 晴はそれでも少し、不安そうだ。 「ユウイチのこと、泣かせたら嫌だよ?」 彼を安心させるように笑った小笠原の、元々下がり気味の目尻がもっと下がって、とても優しい顔になる。 「ああ泣かせない。大事にするよ、約束する」 それを聞いてホッとしたのか、晴がにこりと笑った。 小笠原が今日初めて見た、昔と変わらない可愛らしい笑顔だった。 「晴…… おいで」 愛しさで堪らなくなり、小笠原は晴へと両腕を広げる。 晴は喜んで座席を飛び越え、小笠原の首にしがみついてきた。 「オガ先輩、だーい好き」 ギュッとしがみついてくる晴の背中をポンポンと叩いてやりながら、 「俺も好きだよ、晴」 こんな素直に自分の気持ちを口にしたのは何年振りだろうと、小笠原はしみじみと感じ入っていた。 今まで遊んできた男達の耳元にも、好きだ愛してると散々囁いてきたが、何の感情も込められていなかったのだと改めて思う。 誠意の欠片も無かったこれまでの自分の行いに西村の顔がふと浮かび、あいつにも悪いことをしたなと考える。 もう少し別の愛し方をしてやっていたら、西村との関係もまた違ったものになったかもしれない。 今の自分と晴のように。 それにしてもと、小笠原は晴を抱く腕に力を込めた。 「あーこの感触、久し振り」 晴の癖のあるフワフワの髪が、頬に当たってくすぐったい。 男遊びを始めてから汚してしまいそうで、昔のように彼を抱きしめることができなかったのだ。 「惜しいことをした。もっとお前をいっぱい抱きしめておくんだった。こんなところ大志に見られたら、俺きっと殺されちまう」 そう言いつつも、しっかりと抱いて離そうとしない小笠原の肩に顎を乗せていた晴は、クスクスと笑う。 そして、 「これからは、ユウイチをいっぱい抱きしめてやってよ。オガ先輩の胸はとても広いから、ユウイチも安心してきっと幸せな気持ちになってくれるよ。今の俺みたいに」 と、それこそ小笠原を感激させるような言葉をサラリと言ったので、小笠原は益々晴を離せなくなってしまったのだった。 |