小谷は祐一のついでに大志を宮内組に入れたつもりでも、普通は逆を考える。 「松浦君を追いかけて今井君まで宮内組に入った」と言ったバレエ組の女子のように。 だってあの大志だ。 卑屈になっているのでもなんでもなく、祐一と大志を比べれば、小谷が入れたかったのは大志の方で、祐一がついでだと誰だって思うだろう。 ただ弁解をさせてもらえるならば、真実祐一に大志を追いかけたつもりはなかった。 吹聴してまわることでもないので黙っているけれど、実は小谷に看板を描いてくれと持ちかけられた時、大志がとても嬉しそうな顔をしたのだ。 その顔を見た祐一は、大志がひとり孤立してではなく、どこかの組に入って同級生達と一緒に乙姫祭に参加したいと望んでいて、それで個展は開かないと言い張っているのだと察した。 今までできる限り他人との接触を避けてきた大志が、と思うと驚きも然ることながら、祐一の口元もつられて綻んでしまう。 顔の筋肉が無闇に硬い大志の表情を弛ませていることに、小谷本人が全く気づいていないところがまた良い。 そんな小谷がいる宮内組ならば、監督やメンバー達ともきっと仲良くなれるに違いない。それに芝居の裏方作業なら、今後アルバイト先の芸能事務所で役立つ何かが学べるかもしれないと考えを改め、今まで散々断ってきた宮内組入りを決めたのだ。 期待とは違って、組の作業は教えられるより教えることの方が多かったが、それはそれで復習にもなり、宮内組の仲間と過ごす時間は忙しいながらも充実していて、毎日があっという間に過ぎていく。 バレエ衣装の製作を専門に学んでいながらバレエ組に入らず、御伽話の浦島太郎さながら龍宮城での夢のような生活を満喫する祐一に不満を口にする者は無く、水を差す出来事も起こらなかった。 今日までは。 だから気がつけなかったのだ。 個展をぶち壊した挙げ句に大志を横取りした罪により、小谷が同級生達から弾劾されていることに。 「バレエ組の子達と喧嘩なんかしてる場合じゃないでしょう!? 分かってるの、みんなは小谷が松浦を奪ったって勘違いしてるんだよ!? 早く誤解を解かなきゃ! 僕、バレエ組に行って話してくる。あ、松浦を連れてった方がいいかも。松浦の話ならみんな聞いて――」 「あいつに、大勢の女子の前で何を喋らすの?」 「!」 祐一は咄嗟の返答に詰まり思わず小谷を見上げたが、ここで黙れば小谷だけが悪者になってしまうと気を取り直し、言葉を重ねた。 「でも、だって、松浦が自分で個展はしない、宮内組の看板を描くって言ったんだよ?」 「お前はほんとに松浦、松浦しか言わないな」 「うう」 自覚があるだけに言い返せない。 今度こそ口をつぐんだ祐一に、小谷は呆れているとも困っているとも取れる顔をする。 「あーごめん、そうじゃなくて。……なあ、今井」 「うん?」 「フッ、だからごめんって」 小谷の心配だってしてるのにと、少し拗ねた返事をした祐一に吹き出しながら、ま、お前のことだからと小谷は続けた。 |