すると、小笠原の心配を察した祐一が気を利かせて、 「今日も松浦が迎えに来てくれるので、大丈夫です」 笑顔を崩さず言った。 今日、も? またお前は「松浦」か。 確かに大志がいてくれれば安心だ。 あの時の大志は小笠原でも、こいつヤバイと思う程怖かった。 オレのものに触るなオーラが全身から滲み出し、不機嫌さを隠そうともせず、あの長身からあの目つきの悪さで怒りもあらわに睨み下ろされれば、大抵の人間はすくみ上がるだろう。 しかしそれは晴限定のものであって、祐一に対してのものではない。 そんなに嬉しそうにして、こいつはそこんとこ分かっているのだろうか。 祐一は祐一で別に大志が来てくれるから嬉しいのではなく、つい先日の正月に、 「先輩のバカ!」 と怒ったまま気まずく別れたきりで、あんなことをされた後、次に小笠原と会ったらどういう態度をとればいいのか、この二日間ずっと悩んでいて。 その小笠原が自分を心配してくれているから笑顔になっているのだが、祐一の真意が掴めず勘違いしている小笠原は、彼の笑顔が気に入らずまたイライラして、 「あーそりゃ、良かったな。でもさぁ、大志はお前を迎えに来るわけじゃないだろ? 晴に便乗してるだけだろ? そんなんでも嬉しいわけ、祐一は!?」 強い口調になってしまい、すぐに気づいて口をつぐむ。 少し言い過ぎたと思い祐一の様子を窺うと、最初小笠原の剣幕にびっくりして大きく見開き自分を見上げていたその目から、みるみるうちに涙が零れ始めて泣き顔を隠すように下を向き、 「そんなこと、分かってます」 小さく呟かれた彼の声が、小笠原の耳に辛うじて届いた。 「祐一……」 言い過ぎた、ごめん。 後悔して謝ろうと口を開きかけた小笠原を、今度は祐一が顔を上げてキッと睨みつける。 今まで悩んでいたもやもやした気持ちを、彼にぶつけるように。 祐一は普段、物腰も口調も柔らかいので誤解され易いのだが、本当ははっきりと物を言う、しっかりした性格をしているのだ。 「松浦が晴さんを好きなことくらい、先輩に言われなくても分かってます!」 「祐一」 分かってたのか。 「でも…… でも松浦は、僕にもすごく優しくて」 俺は、優しくないよな。 「オガ先輩みたいに、急に大声出して怒鳴ったりしないし」 「祐一、悪かっ……」 「思いやりがあって、ちゃんと僕の話を最後まで聞いてくれるっ!」 「……」 「それに、それに…… 松浦は、急にキ、キスなんてヘンなこと、してきませんっ!」 最初は祐一をどう宥めようかと思案していた小笠原だったが、そう聞くとさすがに怒りの表情が顔に浮かんだ。 「……ったりまえだ、バカ。大志がお前にキスなんかしてたまるか! そうか、悪かったな、ヘンなことして。別に口にしたわけじゃなし、あんなのただの遊びだろ? なに真に受けてんの、お前。これだからお子ちゃまは……」 小笠原が言い終わらないうちにまた涙が零れてきた祐一は、 「うっ、うっ…… もういいです! 先輩はそりゃ、遊び慣れててあんなの挨拶のうちかもしれませんけど、ぼ、僕は初めてで…… うっ、この二日間、ずっとオガ先輩のこと考えてて…… う、うっ…… ううっ……」 最後の方はしゃくりあげてしまって、何を言っているのか全く分からない。 |