祐一は、自分がその場にいなかったためにとばっちりを食った小谷と宮内に申し訳なさを感じ、急いでいることも忘れて小谷を見上げた。 「僕のせいで嫌な思いをさせちゃったみたい。ごめんね、小谷」 すると小谷は面映ゆげに祐一を見つめ、 「ほんと、お前って……」 と言いかけ、すぐに表情を引き締め直す。 「あーいや、今井が謝る必要はないんだって。そもそも俺がバレエ組の女子に嫌われてるから、あいつらも最初っから喧嘩腰だったわけで」 「そんなこと」 祐一は小谷の言葉にかぶりを振った。嫌われているなんて、なにか勘違いをしていると思ったのだ。 小谷は一般的に見れば、間違いなく美男子の部類に入る。けれど俳優やモデルを志す者ばかりが集まっているJ学園の芸能科の中で、際立って美形というわけではなかった。 向き合った祐一が気持ち顔を上げると目が合う彼は、身長百七十四センチのやせ形で、芸能科の生徒の大半が似たような体型のイケメンなので、小谷くらいの容姿では大勢の中に埋もれて目立たなくなってしまう。 芸能科の役者コースの演技実習の授業では、特別なイケメンや逆の意味で個性的な顔立ちの者など、人より抜きん出て存在感のある生徒から順に主要な役が割り振られるのが常で、結果的に目立たないイケメンは、残った端役を大勢で取り合うことになる。 そうするとお決まりのように現れるのが、なにがなんでもライバルを蹴落とそうとする者と、自分を良く見せようとして虚勢を張る者だ。 前者は時にライバルの衣装を滅茶苦茶に破き、後者はそうではないのに「あの子は俺の取り巻きのうちのひとりだ」と言ったりする。 日々の授業でバレエ衣装を担当する祐一がバレエの稽古場に出入りしているのと同じく、役者の稽古場にも多くの被服科の生徒が出入りしていて、そんな彼らの行動に二次的被害を被る者が後を絶たず、彼らは被服科のブラックリストに名前が刻まれ忌み嫌われていた。 話を戻して肝心の小谷はというと、昼の長い休憩中に、目立たないイケメンがライバルのロッカーを無断で開けたり女子に色目を使ったりして躍起になっている最中、熾烈な役の奪い合いなどどこ吹く風とばかりに、教室に残って祐一とのんびりコンビニのおにぎりを食べている。 器が大きいのか、はたまたマイペースすぎるのか。 祐一にはどちらとも断言できなかったけれど、ひとつだけ確かなのは、被服科の生徒に人畜無害認定されている小谷が嫌われているなんて、あり得ないということだ。 特に乙姫祭のために結成されたバレエ組は、被服科の生徒が約四割を占めている。 「今井がそう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ」 どれだけ小谷が人畜無害かを口をとがらせて訴える祐一を、本人が困ったように覗き込んだ。 「俺もやる時はやるんだよ」 |