花揺レル 22

 小谷は仲の良い友達だが、それにしても日頃からボディータッチが多すぎるような気はしていた。けれど大抵は身体に触れるか触れないかくらいの、祐一が嫌がる素振りを見せればすぐに手を引っ込める程度の軽いもので、そこになにか意味が隠されているなんて考えたこともない。
 だから今も、頭上で精一杯鳴いている蝉の合唱にかき消され、もしかしたら自分の声が聞こえなかったのかもと思い直し、もう一度やんわりと催促してみる。
「ね、ねえ小谷。ごめん、僕ちょっと急いでて……」
 けれど祐一の「放して」は、二度は言わせてもらえなかった。
「昼間、今井が芸能事務所の人達を連れて出かけた後にさ、うちにバレエ組の女子が来たんだよ」
 小谷が早口に祐一の言葉を遮ったのだ。
「バレエ組がうちに用っていったら、今井だろ。だから俺、用件を訊かれる前に『今井ならいないぞ』って教えてやったんだよ。そしたらそいつら、人の顔見るなり『隠してないで出しなさいよ』って、突っかかってきてさ。いきなりそんなんじゃ、俺だって頭にくるだろ? お互い『隠してない』『隠してる』で言い合いになったんだ。で、しばらくやり合ってたら隼人が『まあまあ、落ち着いて』って、俺達の間に割って入ってきたんだけど、そいつら隼人にまで『今井君を返して!』って、すげえ勢いで詰め寄ってって、その叫び声を聞いた隣組のやつらが『なにごと?』って顔して覗きに来るし、誰が呼んだか知らないけど先生は駆けつけて来るしで、ちょっとした騒ぎになって」
「ええ!?」
 祐一がカフェレストランの前でバレエ組の女子二人に会ったのは、その後だ。
 確かに彼女達は祐一に会いに宮内組に行ったと言っていた。言っていたが、騒ぎになったなんて一言も聞いてない。
「けど、どうして彼女達は小谷が僕を隠してるなんて思ったんだろう。小谷は僕が出かけてるって、ちゃんと言ったんでしょ?」
 あの二人は泣き出した川崎の対処に困って、祐一を探していたんじゃなかったか。それなら祐一の行き先を小谷に尋ねるのが一番の近道だ。けれどカフェレストランの前で会ったのは偶然のようだったし、祐一が小笠原と高遠を連れているのも知らなかった様子だった。
 つまり彼女達は小谷の言葉を信じず、騒ぐだけ騒いで宮内組を立ち去ったことになる。小谷が祐一を隠していてわざと会わせないと思い込むほど、切羽詰まっていたのだろうか。けれど、思い込まれた方はたまったものじゃない。




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