花揺レル 18

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 祐一が小笠原に初めて会ったのは、中学二年の十四才の時だ。
 六つ年上の小笠原はその時既に二十才になっていて、働きながらバンド活動をしている社会人だった。まだこれから先の何年もを学生服で過ごす予定の祐一からしてみれば、充分大人の領域に達している人だ。
 祐一は消極的な性格ではないが、自分から年の離れた人に話しかける図々しさは持ち合わせておらず、出会って一年ほどは、小笠原と個人的に言葉を交わしたことはなかった。
 それに、年齢差だけではない。
 オブシディアン事務所で人手が足りない時に呼ばれる雑用係の祐一と、事務所所属のタレントで、いわゆる芸能人と呼ばれる小笠原では、そもそも立場が違う。
 祐一が仕事中に見かける小笠原は、事務所の隣に建っている音楽スタジオの前でバンドのファンに囲まれているか、そうでなければ、音楽活動の合間に働くレストランの常連客に囲まれているかのどちらかで、仕事の手を休めてそれを遠巻きにみつめている祐一と目が合う、という偶然もなかった。
 たぶん当時の小笠原は、事務所の中の祐一の存在にすら気がついていなかっただろう。
 それが大志と一緒に働くことで、最初は大志の義兄でありバンドのボーカルである晴と仲良くなり、そこから晴と繋がっているメンバーの小笠原とも徐々に打ち解けていったのだ。
 知り合ってみると、小笠原は芸能人と一般人の差を感じさせない、お喋りで気さくな人柄だった。いざ親しくなれば、口は悪いが面倒見の良い性格は六つ年下の祐一にも遺憾なく発揮され、お前には無理だと誰もが首を振るJ学園の受験の際の家庭教師役を買って出てくれたのも小笠原だ。
 そして祐一が見事J学園に合格し、オブシディアン事務所の正式なアルバイトスタッフに昇格すると距離は更に縮まり、小笠原は祐一の前で頼もしい兄貴分としてだけでなく、曲作りに煮詰まって落ち込んだりもする弱い部分を晒け出すようになっていた。
 小笠原に好きだと告白されたのは、出会いから丸三年が過ぎた高校二年の冬で、祐一が芸能事務所の仕事にも慣れ、小笠原と過ごす時間を心地良く感じ始めた、そんな頃だった。




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