花揺レル 17

 その強い思いのせいで、古典衣装についての簡単なレクチャーを終えた祐一の口調が、彼女達を責めるものになった。
「裏方の君達が、本番前のダンサーを不安にさせてどうするの」
 けれど、彼女達にだって言い分はある。
「なによ、私達が悪いって言うの? それなら今井君はどうなのよ。君が最初からうちの組に入って川崎さんの衣装を担当していれば、こんなことにはならなかったんじゃないの」
「そうよ。松浦君が宮内組に入ったからって、なにも今井君まで追いかけていくことないじゃない。ただでさえ専門の製作者は五人しかいないのに」
「ううう」
 思わぬ反撃を食らった祐一は、一言も無い。
 乙姫祭での役割分担は専門職に限る、というルールは特に無いのだが、彼女達の言う通り、バレエダンサーの人数に対して衣装製作者の数は圧倒的に足りていない。
 だから祐一の最初の予定では、大志の絵の個展の準備を手伝いながら、バレエ組にまわるつもりだったのだ。仲良くしている残りの四人にも、そう伝えて了承は得てあった。
 ところが小谷に押し切られるような形でロミオの衣装を作ることになり、そのうち宮内組の仕事から抜けられなくなり……
 バレエ衣装が専門ではなく、祐一と親しいとは言えない彼女達が事情を知らないのは仕方がないが、別に大志を追いかけて宮内組に入ったわけではないのに、今それを言うか。よりによって小笠原の前で。
「ち、違うんだ」
 祐一はばつの悪い思いをしながら、それでも否定しようとしたのだが、今度は小笠原に邪魔をされてしまう。
「あのさ、ちょっといいか? 部外者の俺が口出しすべき問題じゃないんだろうが、これだけは言わせてくれ。祐一はさ、やるべきことをほったらかしにしといて大志に流されるような、そんな中途半端な奴じゃねぇぞ」
 イケメンが憂いに満ちた顔で言えば、どうしても皆の注目はそちらに向く。祐一の否定の声は、誰も聞いてはいなかった。
「おたくらの言い分ももっともだと俺は思う。けどさ、こいつにはこいつの事情ってのがあったんじゃねえの。まああれだ、ここでお互いどっちが悪いかなんて言い合ってても、どうしようもないってことだな」
 大人しく頷く彼女達を見て、小笠原に庇ってもらったのだと分かってはいても、祐一はどうにもすっきりしない。
「あのね、先輩。違うんです、僕は」
 小笠原が言った『こいつの事情』を、他でもない、小笠原には知っておいて欲しい。
 祐一はそう思い向き直ったのだが、当の小笠原に聞く気はないようだった。
「てことで祐一、行ってこい」
「え?」
「なんとかって名前の、バレリーナのとこ。役者からご指名受けるなんざ、裏方冥利に尽きるってもんだ。そうだろ?」
「でも、まだ龍宮城の案内が」
「あー、重要な所はだいたい見せてくれたんだろ? なら後は、俺とタカだけで回れるし。で、時間になったら晴を回収して適当に帰るから、俺達のことは気にしなくていいぞ」
「……はい」
 あらかじめ頭に入っている台詞をそらんじるように淀みなく言う小笠原に、祐一はただ頷くしかなかった。




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あきゅろす。
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