花揺レル 15


 辿り着いたカフェレストランの入り口前で、二人の女子生徒が立ち話をしている。
 彼女らの会話が軽いお喋りではなく、込み入った内容のものであることは、深刻そうに俯いた二人の横顔から容易に推測できた。片方が自分と同じ被服科の生徒で顔見知りだったこともあり、祐一は彼女達を放っておけない。
「ねえ、どうかしたの?」
 祐一の問いかけに、彼女達は安堵の表情で顔を上げた。
「あ、今井君! 良かった! 宮内組に会いに行ったら、今井君は午後は休みを取ってるって聞いて。それでカフェまで来たんだけど見つからないし、これからどこを探せばいいのか見当がつかなくて困っていたの」
「僕を探してた? なんだろう、大事な用事?」
 思いがけない展開に首を傾げて先を促す祐一だったが、二人はなかなか答えようとしない。
 彼女達が、祐一の後ろに立って成り行きを見守っている高遠と小笠原、特に小笠原を二度見した後、顔を赤らめながら目配せするのを確認した祐一は、彼女達が口を開くのを待たずに言った。
「急ぎじゃないなら、明日にしてくれる? 僕達、龍宮城の中を歩き回って喉がからからなんだ」
 普段の祐一なら、こんなつっけんどんな言い方も、困っている人を見捨てるような真似も絶対にしないのだが、小笠原を見て頬を赤く染めた彼女達と小笠原を、これ以上同じ場所に立たせていたくなかったのだ。
 祐一は小笠原の容姿が、俳優やモデルの卵が集まっていて、イケメンを見慣れているJ学園の女子生徒ですら見惚れるほどレベルが高いことを、充分承知している。そしてゲイである小笠原が、女の子から向けられる意味深な眼差しなど歯牙にもかけないことも。
 それなのに、今までは気にもしていなかったことでこんなにモヤモヤと嫌な気持ちになるなんて。
 祐一は自分の胸の内の醜い感情を見ないように彼女達からも目を背け、カフェレストランに入って行こうとする。
 そんな祐一を、彼女らは慌てて引き留めた。
「今井君、待って! あのね私達、川崎さんの機嫌を損ねてしまったのよ」
 それ以上は言いにくそうに口ごもった二人がチラッと小笠原に向けた視線に、今度は戸惑いが混ざっている。
「この人達は、僕がアルバイトをしている芸能事務所の関係者だから、本番前の内輪の揉め事には慣れていて理解もあるよ。大丈夫、口は固いから」
 祐一が安心させるように受け合うと、彼女達は先を続けた。
「私達が端正込めて作った衣装が、川崎さんのお気に召さなかったらしいの。今井君が縫った衣装でなければ踊れない、今すぐ彼を呼んで来てと言って、泣き出してしまって」
「川崎さんって、バレエダンサーの川崎さんだよね? 乙姫祭で『眠れる森の美女』の、オーロラ姫のバリエーションを踊る?」
 念を押すと二人はそうだと頷くのだが、祐一が思い浮かべた川崎像とどうにも結びつかず、違和感を覚えた。




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