◇◆◇◆◇ 「社長。今の所で目立った組はほとんど回り終わりましたけど、どうしましょう。少人数の組を見る前に、少し休憩しますか?」 「うーん、そうね。めぼしい子には名刺を渡したし、後は返事を待つしかないから、一旦休憩にしましょう。祐一、アンタ朝から働きづめなんでしょ。暑い中、よく案内してくれたわね。お疲れさま」 「いいえ、どういたしまして」 労いの言葉にそう笑顔で返したものの、祐一は龍宮城を案内している間中、背後が気になって仕方がなかった。 自分達の後ろを、高遠に一喝された小笠原が大人しくついてくる。いつものようにブツブツと文句を言うわけでもなく、生徒に声をかけている間も一切口を挟まず、普段は言いたい放題の小笠原が終始無言なのは、とても珍しいことだ。 静かな小笠原というだけで充分不気味なのに、ふいに祐一は、高遠や同級生達と話し込み意識していない時に限って、自分が小笠原から見つめられていることに気がついた。 勘違いかもしれないと思い、視線を感じたタイミングで振り返ってみると、気まずい顔をした小笠原にぎこちなく目を逸らされる。 そんなことが二度三度と続けば気が散って案内どころではなく、龍宮城の中を歩く足と説明する口が必要以上に速くなり、高遠が休憩すると言った時には心底ほっとしたのだった。 「ここのカフェレストランは“エメラルド”ほどではないんですけど、何でも美味しいんですよ。松浦は最近クロナッツに嵌まっていて、生クリームを挟んだ上からメープルシロップをたっぷり掛けたのを、朝から三つも食べて……」 「祐一」 もし高遠が止めてくれなかったら、祐一は小笠原の前で延々と大志の話を続けていただろう。 悪い癖ほど、気が緩んだ時に出るものだ。 「あの、えっと……」 しかしこの場合、すみませんと謝るのは少し違う気がする。 微妙な空気が流れる中、今まで黙っていた小笠原がなんでもないように口を開いた。 「クロナッツって、今流行りのスイーツだろ? “エメラルド”のメニューにはまだ無かったよな。俺もそれ、食べてみたい」 そう言った小笠原が、決して甘党ではない事実よりも、大志の話を平気で聞き流したことの方が、祐一にはショックだった。 |