花揺レル 11

「タイシ! ユウイチ!」
 燦々と照る太陽と同じくらい明るく、真夏の空の青さを写したように澄み、蝉の大合唱にも負けず遠くまで良く通る、自分達の名前を呼ぶ声。
 今まで地面を見つめて動かなかった大志の肩が、ぴくりと跳ねる。
 それを合図に、声がした龍宮城の門の方角を振り返ると、数十メートル先をこちらに向かって歩いてくる二つの人影と、その二つの影の間から、ひとまわり小さい影が飛び出すのが見えた。
 小さな人影はみるみる近づいてきて、祐一の横を風を切って駆け抜け、スピードを落とすことなく大志の胸めがけて飛び込んでいく。その場で待ち構えていた大志は難なく抱き止め、嬉しそうに名前を呼び返した。
「ハル」
「タイシ、タイシ、会いたかった!」
 きつく抱きしめあった十秒の後、胸に顔をすりすりと擦りつけられる感触に耐えかねた大志が声をあげる。
「あははは。ハル、やめてくれ。くすぐったい」
 驚いたのは、宮内と小谷だ。
 常に無口で無愛想な友人が笑うところを初めて目撃した彼らは驚愕し、今しがたもうひとりの友人を追いつめていたことも忘れて、抱きあう二人を凝視している。
「ユウイチも、久しぶり…… ウプッ!」
「はい。晴さん、お久しぶりです。ふふっ。構いませんから、どうぞそのままで」
 祐一が吹き出しながら返事をしたのは、こちらに向きかけた晴の頭を大志が掴み、自分の胸に押しつけ直したからだ。挨拶するために顔を回せば、晴は祐一の隣に突っ立っている宮内と小谷にまで笑顔を見せることになる。
 昔から大志は、私的な場で晴が親しい人以外に気安く笑いかけるのを嫌ったが、最近ではあからさまに独占欲を隠そうとしなくなった。
 いつも何事にも泰然と構えている幼馴染みが、晴に関してだけ必死になる姿が可笑しい。
 祐一は仲睦まじい二人を見ても、そんなふうに思えるようになった自分に安堵した。大志と晴のスキンシップに兄弟以上の意味があると知り、胸を痛めた過去が嘘みたいだ。
 なにより、大志への辛い想いを忘れさせてくれた人が、すぐそこに来ているという事実が心強い。
「オガ先輩!」
 晴から遅れること数分、桜の木陰をのんびりと歩いてくる人の顔がはっきり見えるようになると、祐一は待ちきれずにその人の名前を呼んだ。




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あきゅろす。
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