祐一が言い淀んだのは、宮内が小谷と大志と祐一で三角形の構図を勝手に思い描き、面白がっている様子に、気を悪くしたからではない。 ふいに、小笠原の顔が浮かんだからだった。 頭では、大志に対して世話をやく必要はもうないのだと分かっていても、長年の癖ですぐには止められない。お節介なのは今回の合宿に限ったことではないし、普段アルバイト先で大志とのやり取りを目にする機会が多い小笠原は、どう思っているだろうと考えたのだ。 それでなくても、付き合ってくれという告白の返事を、半年も先延ばしにしてしまっている。例え無意識の行動とはいえ、告白した相手が返事を保留にしたまま自分を差し置いて、他の男にかまけているという図は、見ていて気分の良いものではないはずだ。 それとも先輩が文句のひとつも言ってこないのは、既に僕のことなど好きでなくなっているからでは? 極端な結論に達し顔色を変えた祐一に、宮内が気づいた。 「ああ、今井。そんな顔しなくていいよ、からかってるつもりはないからさ。ほら、お前と松浦を宮内組に引っ張ってきたのは、章博だろ? だから俺としては、そのお礼がしたいっていうか」 ショックを引きずる祐一は、宮内の思い違いを訂正する気になれず、曖昧にうなづく。 「ほんと、章博には感謝してるんだよ。まさか自分の舞台の背景を松浦に描いてもらえるなんて、誰だって思わないだろう?」 座ったままの宮内は大志を見上げたあと、大志の視線を追うように地面に目を移した。 二人がみつめている地面には、今回の舞台で使用する大きな幕が広げてある。中引幕(なかひきまく)と呼ばれる、ステージのほぼ真ん中に掛けるカーテン状の舞台幕だ。 大志はこれに、宮内が書いた脚本の二幕目の背景を描いているところだった。中引幕は絵を描くキャンバスに張るのと同じ、丈夫な帆布でできている。 そこにはイタリアの北東部に位置し、ルネサンス期に大都市ローマやミラノへ向かう交通の要衝として栄えた自治都市ヴェローナの、十四世紀当時の美しい赤レンガ造りの町並みが、鮮やかな色彩で再現されつつあった。 「俺はてっきり、松浦は個展をやるもんだとばかり思ってたからさ」 宮内の言葉に同意の祐一は、今度は大きくうなずいた。 |