見ていないと、オレは首を振る。 「なんだ大志。お前、まだ見てなかったのか。悪い、私が今朝持って出掛けてしまった。店のスタッフ達に自慢しようと思ってな」 すると姿は見えないが、きっぱりと低い女性の声がリビングに響いた。 声を合図に、オレを取り囲んで騒いでいた“オブシディアン”メンバー達が退いたので、リビングの入り口に突っ立ったままだったオレの視界が突然開ける。 周りが良く見えるようになったオレが、声の主を探すまでもなく。 オレの真正面、リビングの上座に当たるソファーにまるで女王様然として、義母ウイが足を組んで座っているのが見えた。 いつ見ても惚れ惚れする、堂々とした姿の義母の手には、新聞が握られている。母親から新聞を受け取ったハルが、これを見ろと、オレに持ってきた。 オレは受け取ると、言われたページを即座に捲る。 ――なんだ、これは。 その記事には、大きく見出しがついていた。 『第五十四回 C新聞絵画コンクール 受賞者発表!』 確かにオレは、このコンクールに絵を応募した。 しかしそれは学校で絵の授業を受けている、美術専攻の生徒全員がだ。 そして確かにオレは、先日行われた授賞式に出るために、この新聞社へ行った。 しかしそれは担任の先生と、オレの他に入賞した生徒二人が一緒だった。新聞記事の入賞者の名前一覧には、オレの名前と共にそいつらの名前も載っている。 問題は、その下の写真だった。 写真は一枚だけ。 賞状とトロフィーを持ちモデル立ちをした、いや、斜めから撮影されているのでそのように見える、全身が映り込んだオレの写真。しかもカラーだ。 ご丁寧に写真の下には、 『入賞者 松浦大志さん 学校法人J学園高校新三年生』 と、但し書きまでついている。 斜めから撮られたその写真には、顔を隠すために伸ばしている前髪の効果が半減し、学ランを着て仏頂面をしたオレの顔がバッチリと写っていた。 ――嘘だろ、おい。受賞者全員で撮った集合写真はどこにある? オレより上の賞を獲った奴の写真はどこだ? オレは新聞をひっくり返したり、ページを捲ったりして別の写真を探す。 皆が無言でオレの動きを見守る中、ガサガサと質の悪い紙の擦れる音だけが、虚しく室内に響いている。 暫くの間の後に、とうとう義光さんが言った。 「残念だが大志。幾ら探しても、写真はお前のその一枚だけだぞ」 |