松浦大志の主夫的な一日 3

 〈午後三時すぎ〉

「ハル…… ハル! どうした、何かあったのか!?」
 玄関の鍵穴を回すのももどかしく、履いていた靴を乱暴に脱ぎ捨てると、オレは慌ててリビングへ通じるドアを開ける。
 開けた途端。

 パーン! パーン! パーン!

 幾つかの軽い炸裂音と共に、火薬の臭いが鼻をついた。

 ヒ、ヒイイーーッ!

 不安と恐怖に張り詰めていた緊張の糸が、遂にプツリと切れる。
 オレの目の前の景色がぐるぐると回り出し、掛けていたエコバッグが、ボトッと音をたてて肩から滑り落ちた。
 遠退く意識の中、オレの脳裏を一つの思いが駆け抜ける。

 ――ああ、買ったばかりの卵が割れてしまった。勿体ない……



〈午後三時少しすぎ〉

「ごめんね。ごめんね、タイシ。こんなにびっくりするなんて、思わなかったんだよ」
 ハルが心配そうにオレの顔を覗き込みながら、必死に謝ってくれる。

 ――いやハル、もういいから。あなたが無事なら、それで。

 ――ところで、この騒ぎは一体なんだ? 義光さんと今井がうちにいるのは、いつものことだが。

 ――あの、亮太さん。クラッカーをこちらに向けるのは、止めてもらえませんか? しかも指の間に挟んで、片手で三つも持つのは。亮太さんが、十本の指を全部口に入れて指笛を鳴らせたり、とても器用なことは知ってます。

 ――まだ、いっーぱい残ってる? アンタ、どれだけ買ってきたんだ。オレにあれだけの数を浴びせておいて。

 ――それから…… 前原さん? 観葉植物の後ろにさっきから見え隠れしているのは、“オブシディアン”のベースの、前原さんですよね?

 ――いえ。こちらこそ、お久しぶりです。相変わらずアクセサリーが、ジャラジャラいってますね。

 ――いえ、いいんです。その音がしなければ、前原さんの存在に気がつきませんでしたから。

 ――はい? おめでとう?

「……皆して、さっきから何がそんなにめでたいんだ?」
 あまり口をきいたことがない前原さんにまで祝いの言葉を述べられて、オレはとうとう我慢ができずに訊いてみる。
 すると、このリビングにいる全員が、えっ?という顔をして、一斉にオレを見た。

 なんだなんだ? オレ今、おかしなことを言っただろうか?

 皆に注目されてたじろいでいるオレに、
「あれ、タイシ。お前、今朝の新聞見てないのか?」
 普段新聞になど見向きもしないハルまでが、驚いたようにそう言った。




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