焼きもちを妬いてくれるだろうか? そんなつまらないことを考えているうちは、あの人は決して俺に振り向いてはくれないだろう―― **** 「ねぇ、ちょっと。そこの君」 信号待ちの交差点で。 俺が乗った原付バイクの右隣に、青のカブリオレが並んだ。 顔を向けると、左ハンドルの運転席から髪の長い、赤い口紅がやたらと目立つお姉さんが、サングラス越しにこっちを見ている。 「この辺でお勧めの、美味しいお店ってないかしら? ホテルのレストランは高いだけで、口に合わないのよ」 なんだ。 てっきりナンパかと思ったよ。 俺はお姉さんに単語だけで訊ね返す。 「和食、洋食、中華?」 「洋食。ドライブがてら探してみたんだけど、全然見つからなくて」 「ふーん」 見るからに地元民でないお姉さんは、目的地を決めずに気が向いた駅で降りてみた、気ままな一人旅ってところだろうか。乗ってきたのは電車じゃなくて、BMWだけど。 俺が住んでいるT市は自動車産業が盛んで、町がそこそこ潤っている分、駅の周辺は地価が高く、テナントに入るにしても家賃がばか高い。なので広い駐車スペースを必要とする大きめのレストランは、みんな郊外に出ていってしまう。 町中に残ったのは老舗ばかりで、どれも門構えが狭く、常連客相手の商売をしているから、わざわざ道沿いに案内の看板を立てる必要もない。 他所から来た人間が、情報誌やネットで調べもせずにやみくもに探し回ったところで、期待するような小洒落た店は、そう簡単に見つかりっこないんだ。 俺は迷わずお姉さんに言った。 「こっから五分くらい行った所に“エメラルド”っていう、洋食のレストランがあるんだ。案内するからついてきてよ」 そして進行方向の信号が青に変わったのを確認してから、原付のスロットルを回した。 |