花眺メル 終

「な、何だよ、松浦」
 うわっ。恥ずかしくて、声が上ずってしまった。

 でも彼は、僕が慌てていることにはお構いなしだ。
「タカさんが……」
「うん、タカ先輩が?」
「トナカイの着ぐるみの背中のファスナーが壊れたから、今日直しに来てくれって」
「へぇ、そう……」

 ああ、タカ先輩。
 誰かあの人を、どうにかして欲しい。
 あんなのでまともに社長業が務まるのだろうか。
 まずはコスプレをやめるように、きつく言ってやらねば。

 グッと拳を握り締めて決意する。
 そんな僕をまだ見ていた松浦が、
「オレも一緒に行く。見せたい絵もあるし」
 言って、クスリと笑った。

 うわっ、松浦が笑った。
 なんだか、どうしよう。
 とても中学生には見えない、松浦の大人びた笑顔にときめいてしまう僕って……
 何なんだ?

 僕のこのドキドキは、昇降口を抜けて教室に入ってからも暫く続いていた。


 別のある日、
「おはよう、松浦くん」
 昇降口で繰り広げられる、いつもの朝の風景。
 格上のJKと何日かを過ごし免疫ができた僕は、前から訊きたくて仕方がなかったことをさらりとJCに訊ねてみた。
「ねぇ、どうして登校途中には、松浦に話しかけないの?」
 女子曰く、
「あの時間は、遠くから彼を眺める時間なの」
 だ、そうだ。

 あっはーん。
 よく、わかりました。



2009.12.25
改訂2010.04.15
再改訂2011.03.26
再々改訂2012.11.19





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