卒業 2

 そういうわけで、二人の卒業が間近に迫った昨今、多くのファンが一日も早いアルバムのリリースを心待ちにしていたのだ。
「俺だって頑張ったんだぞ。一昨日まで学校行って、追試のテストを受けてたんだから。うちの担任って、何気に失礼だよね。あんなに泣かなくたっていいのに」
 晴はケロリとしてそう言うが、実は彼の卒業はギリギリまで危ぶまれていた。
 控え目に言うと、晴は学校の勉強が、人より少しばかり苦手だったから。
 帰国子女である晴に言わせれば、
「日本語って、どうしてひらがなとカタカナと漢字の三つもあるわけ? 古典て何? 意味が分からない」
 となるのだが。
 毎年の進級にも苦労していたものを、すんなり卒業するのは難しいかと、実はコック長も人知れず気を揉んでいた。
 なので晴を何とか卒業まで漕ぎ着けさせた担任の先生の苦労を慮ると、気の毒になる。
 晴の卒業が一年延びれば、アルバムが出るのは一年遅れる。
 同じ学校に通っている誼ということもあり、T高の在校生には“オブシディアン”のファンが多いのだ。
 日々の学校生活の中で先生を苛む無言のプレッシャーは、相当なものだったに違いない。だから卒業式で男泣きに暮れたのも無理からぬことだと、コック長は担任の先生に対する同情の涙を、エプロンの端でそっと拭った。
「それはそうと、コック長も今晩のパーティー、出てくれるんだよね?」
 これで漸く勉強から開放されるとあって、晴れ晴れとした顔の晴がコック長に訊ねた。
「ああ、勿論」
 今日は特別に午後の営業を休みにした“エメラルド”で、身内だけの卒業祝いパーティーをする予定になっている。
 学校の先生達も招待したと言っていたから、晴と亮太の担任をやり遂げた先生にビールの一杯でも注いで、今までの苦労を労ってやろうと、コック長は思った。




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