My sweet baby 27

「なあ、なにしてんの?」
 義光の声が硬くなる。
 わざわざ訊かなくても、祐一が何をしているかなど一目瞭然だ。しかし声に出して訊ねなければ、折角祐一が糸でくくりつけた葉を即座にむしり取り、悪趣味な真似はやめろと怒鳴りつけてしまいそうだ。お前まで俺を責めるのかと詰りたくなる衝動を抑えるために、義光は落ち葉から目を逸らした。
 それなのに、落ち葉を結び終えた祐一はベンチから飛び降り、
「先輩、これで寂しくないですよね」
 と、義光に明るい笑顔を向ける。
「この葉っぱは、オガ先輩の傍にいつでもいますよ、っていう印です。いつも見てるから頑張れ、って。だからこれから落ち込んだ時は、この葉っぱを見て元気になってください」
「こんな葉っぱ一枚で、曲が書けるようになるかよ」
 鼻先であしらった義光に、祐一は小首を傾げる。
「うーん、それは僕には保証できかねますけど」
「お前は自分でも保証できないことをしたのかよ」
 結局義光は、能天気に笑う祐一に我慢ができず皮肉を言ったのだが、祐一はさも心外だという顔になった。
「なに言ってるんですか。曲を作るのはオガ先輩ですよ。できるかどうかは、先輩次第です。甘えるのも大概にしてください」
「なっ」
 思いがけない祐一の叱責に、義光は言葉に詰まる。
 すると祐一は押し黙ってしまった義光の前に立ち、口調を柔らかいものに変えた。
「その代わり誰が何を言おうと、僕はオガ先輩の味方です。創作の邪魔は誰にもさせませんから、安心して曲作りに専念してください」
「お前、俺のことで誰かに何か言われたのか」
「……いいえ」
 珍しく口ごもった祐一に、義光ははっとする。
 バンドが有名になるということは、メンバーを知る人間が多くなる分ファンも増えるが、アンチも増えるということだ。
 がら空きだった客席が埋まり、演奏中に嘲笑半分の野次が飛んでくることはなくなっても、匿名のインターネット掲示板には、目を覆いたくなる類いの書き込みがされていたりする。
 そうかと思えば、熱烈なファンが行き過ぎた愛情表現を示し、ボーカルの晴が連れ去られそうになった騒動は去年起きたことで、まだ記憶に新しい。
 以前はアルバム制作以外の煩雑な用件も全て、バンドメンバーの中で年長者の義光と高遠が対応していたものだが、だんだんと二人の手に余る案件が増え、創作活動に支障をきたすようになって、いつのまにか事務所スタッフに任せきりになっていた。
 思い返してみれば、ここ最近スタッフから手渡されるファンレターは、カッコいいとか超クールとか、こちらの気分が良くなるような文言しか書かれていないものばかりだ。
 そして祐一は高校生ながら、優秀な事務所スタッフの一員だった。
「祐一、お前」
 義光に続きを言わせまいと、祐一は慌てて首を振る。
「オガ先輩がスランプから抜け出すまでの辛抱ですから。立ち直ったら文句のつけようがない素敵な曲を書いて、皆さんを黙らせてくれればいいんです。それまでは、僕が先輩の盾になりますから」


  

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あきゅろす。
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