My sweet baby 24


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 駐車場の片隅に据えられたベンチにひとり腰かけた義光は、背もたれに身を預け、見るともなしに空を見上げた。
 ベンチの脇に植わっている落葉樹はすっかり葉を落とし、青空に向かって伸びたむき出しの細い枝が、冷たさの増した風に抗うこともできずに揺れていた。
 その寒々とした姿が視界の隅に入り、義光は憂鬱になる。こんな時は煙草でも吸えば気分転換になるのかもしれないが、生憎七年前に止めてしまった。
 高校を卒業した義光は進学も就職もせず、アルバイトをしていたレストランでそのまま働き続け、益々バンド活動にのめり込んでいった。
 二十一の年に自主制作で初めて出したミニアルバムが評価を得て、二枚目からはインディーズのレコード会社との契約が叶い、今年二十三になった義光がドラムを担当するロックバンドは、今や地元で押しも押されもせぬ人気のインディーズバンドに成長している。
 現在は、来春リリース予定の五枚目のアルバム制作に取りかかっているところだ。おそらくこれが、インディーズ最後のアルバムになるだろう。六枚目以降は、メジャーレーベルからの発売となる。
「クションッ」
 義光は裸の木だけでなく自分にも吹きつける冷たい風に思わずくしゃみをすると、鼻をすすり上げた。
 隣の練習スタジオに入れば暖かい物が飲めるのだが、そもそも立ち上がる気力が湧いてこない。背もたれに腕をまわし、ずるずると地面に足を伸ばすと尻が浮いて、今にもベンチからずり落ちそうになる。そこを堪えて、もう一度鼻をすすり上げた。
「オガ先輩、なにしてるんですか」
 その時、呆れたように名前を呼ばれた。
 しかし自分を探しにやって来るのが誰なのか、最初から検討がついていた義光に驚きはなく、空を仰いだまま顔も上げない。
「見りゃ分かんだろ。休憩中」
「そんな格好でですか? じゃあ、休憩中のところお邪魔して申し訳ないんですけど、タカ先輩がそろそろ練習を再開しましょうって」
「じゃあ、ってなんだよ、じゃあ、って。アイツが俺に、頭冷やしてこいって突っかかってきたんだぜ。俺はまだ戻らないって伝えといて」
「あのね、先輩。僕は先輩達の伝書鳩じゃないんですよ。タカ先輩に言いたいことがあるなら、ご自分でどうぞ」
「言ってくれるねえ、祐一」
 そこで初めて義光は顔を上げ、声の主である祐一を見た。
 今井祐一は、高遠が十代の終わりに立ち上げた芸能事務所でアルバイトをしている高校生だ。
 高二男子の平均的な体つきに、可でも不可でもない顔。丁寧な言葉遣いは、いつ誰に対しても変わらない。
 一見真面目で大人しく、大勢の人の中に埋もれて目立たないタイプかと思いきや、自己主張をはっきりする芯の強い性格だったため、義光より六つも年下だからと気を遣ったり、変に遠慮をする必要がなく、一緒にいて気楽だった。




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