My sweet baby 20


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 月に一度、月曜の始業前に体育館で開かれる全校集会の司会進行は、生徒会が全てを取り仕切るのがT高の習わしだ。
 特に来週から始まる中間試験が済めば、いよいよ十一月に迫る文化祭の準備期間に突入するとあって、舞台中央に据えられた壇上のマイクに向かう生徒会長の口調も、自然と熱を帯びたものになる。
 義光はそれを、一年三組の生徒の列の最後尾について、欠伸をしながら聞くともなしに聞いていた。
 昨夜はドラムの助っ人に入ったバンドの、ライブ後にあった打ち上げ会に遅くまで付き合わされて、殆ど眠れていない。
 学校を休むことも考えたが、恋人と交わしたばかりの約束が頭を過り、重い頭と身体を引きずるようにして登校してきたのだった。
 こんなことなら、遅刻してくりゃ良かったな。
 T高創立以来五本の指に数えられるだろうと、教師からの覚えもめでたい敏腕生徒会長が腹の底から張り上げる、歯切れの良い声を聞きながら、義光の欠伸は止まらなかった。
 高校生活初めての文化祭では、高遠と他に数人の同級生とバンドを組んで、この体育館の舞台で演奏する予定になっている。
 しかしエントリーなどの手続きや生徒会との打ち合わせは、リーダーの高遠に全て任せてあるので、義光が会長の話を聞く必要はないのだった。
「――という訳で、諸君。期間中はくれぐれも事件事故を起こさぬよう、細心の注意を払って準備に当たってくれ。そして今年の文化祭を大いに盛り上げて欲しい。僕からは、以上だ」
 壇上の生徒会長は話し終えると、舞台下に控えている副会長に目で合図を送る。
 スタンドマイクを前に司会を務めていた副会長は、会長に頷き返すと、
「一同、礼!」
 絶妙のタイミングで号令をかけた。
 号令に合わせて全校生徒は一斉にお辞儀をし、頭を上げた時には、集会が終わったことに皆一様にほっとして、近くにいる友人と好き勝手にお喋りを始めたのだが、その喧騒を裂くように、
「皆さん、静粛に!」
 副会長の大きな声が飛んだ。
「静粛に! 生徒集会は以上で終了致しますが、このまま引き続き、退任式に移ります。生徒の皆さんは、並んでいる列を乱さないようにお願いします。校長先生及び退任される先生は、どうぞ舞台にお上がりください」
 体育館の中は、先程とは違った静かなざわめきに包まれる。
「退任って…… 先生、誰か辞めるの?」
「転勤なんじゃないの」
「でも、こんな時期に?」
 クラスメートの、遠慮がちだが好奇に満ちた囁きには大した興味も引かれず、こんなに集会が長引くなら保健室で少し寝かせてもらおうかと、義光が両手を上に思いきり伸びをした時だった。
 無防備な脇腹を、肘でつつく輩がいる。
「あ?」
 それはいつの間にか隣に移動してきた、高遠だった。




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あきゅろす。
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