My sweet baby 17

「アンタが昨夜、俺とのセックスを拒否った訳を知りたい。不機嫌の理由はそれだろ? 怒ってないって言ってんのに、そうやっていつまでもうじうじされてたんじゃ、学校行っても気になって授業が頭に入らない」
 義光にも、高校生という自分の立場を盾に取る小狡さがあった。
 勉強が手につかないなどと訴えられれば、教育者である人間がいつまでも黙りこんでいるわけにいかない。
 恋人は渋々ながら、重い口を開いた。
「……噂を…… 聞いたんだ」
「へえ、どんな噂?」
「……ぼ、僕がお前に…… その…… 強姦、されたって」
「少し違うな。俺が教師の誰かを、強姦したって話だろ」
 即座に訂正した義光を、恋人は驚いて見上げる。
「お前、知っていたのか……!」
「ああ、まあ。お陰さんで、近くに交友関係が無駄に広い情報通がいるもんで。好むと好まざるとにかかわらず、割りと早い段階でいろいろ耳に入るかな」
 さすがに高遠の名は出さないが、何のてらいもなく言ってのけた義光を凝視した恋人の唇が、声も出せないまま信じられないと、小さく動いた。
「し、知っていて、僕に黙ってたのか。お前は知ってて、平気で僕のアパートに来てたのか!」
「だって、ただの噂だろ。どうして俺がそんなもんに縮こまって、アンタに会うのを我慢しなきゃならない?」
 義光は常に噂される側の人間だ。
 これから先音楽で身を立てていこうと考えている義光にとって、聴衆に自分の顔と名前を覚えてもらうことは、ドラムの腕前に次ぐ必須事項である。
 その為にはプライバシーを切り売りするような噂がたっても、それが例え間違った内容だったとしても、自分に興味を持ってもらえるのならば敢えて否定したりはしない。
 義光にとっての噂とは、自分が人々にどれくらい関心を持たれているかを示す、単なるバロメーターでしかないのだから。
 逆に恋人は積極的に吹聴してまわることはないにしろ、今まで噂をする側の人間だった。
 噂を口にする人の大半は、耳にした話をそのまま、或いは多少の尾ひれをつけて、口から吐き出しているにすぎない。
 彼らは自分の流した噂が果たして真実なのかどうか、確かめてみようと考えたことすらない、無責任な傍観者だ。
 それ故、ゲイだと公言して憚らない義光に教師が強姦されたというセンセーショナルな噂は、瞬く間に校内に広まった。




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