My sweet baby 15


****


 一年三組の小笠原義光が、どうやらこの学校の先生を強姦したらしい、という噂が校内に広がり始めたのは、夏休みが明けたばかりの九月だった。
 入学初日からゲイであることを隠さなかった義光に、普通の高校生として付き合える同性の友人はできにくい。
「アンタ、女子達の間で専らの評判よ」
 こういう噂があると教えてくれたのも、中学時代に知り合い、高校で同じクラスになった高遠だった。
 高遠は、見た目は男だが中身は女という性同一性障害者であるため、同性の友人とは言い難く、しかも義光がドラマーとして正規に籍を置いているロックバンドのリーダーだ。
 二人でバンドを始めて既に三年が経った今では、学校の友達というよりは私的な音楽仲間という感が強かった。
「なんだろな。俺に相手にされなかったどこかのベイビーちゃんが、やっかみ半分にでたらめを流したんじゃねえの」
「じゃあ、噂はあくまで噂なのね」
「俺がレイプなんかするとでも? わざわざそんなことしなくたって、相手に不自由してないのはタカが一番よく知ってるだろ。それに、付き合ってる間は真剣だし二股もかけないし、俺はとっても優しいのよ」
「レイプのことは、はなから信じちゃいないわよ。ただ、相手がうちの高校の教師っていうのがね」
 大真面目に本気でその教師と交際していて、いつになく恋人に気を使っていることは、高遠にいまだに言えないでいた。
「その人どうせノーマルでしょ? わたし達みたいなゲイはね、義光。所詮ノンケとは上手くいきっこないわ。どんなに尽くしたって先に向こうの腰が引けて、最後には捨てられるのがオチよ。教師なら尚更、体面を気にするでしょう。アンタだってそうやって捨てられて泣いているゲイを、これまで何人も見てきたじゃないの」
「だったらなんだってんだよ。俺が誰と付き合おうが、お前には関係ねえだろ。タカ、お前さ。俺らに関するどんな陰険な噂話だって、これまで完璧にスルーしてきたじゃん。なのに今回に限ってなんで」
「今回に限って、アンタはわたしにノロケ話すらしないじゃないの。まあ、しないんじゃなくて、できないんでしょうけど。わたしにまで秘密にしなきゃならないような恋人が、レイプの噂を知ったらどうするかしらね。アンタと一緒に黙って耐えてくれるかしら? アンタの恋人が本当にうちの学校の教師なら、噂が耳に届くのももう時間の問題だと思うけど」
「お前…… 俺が捨てられるって、言いたいのかよ」




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!