「ほんとに、先生?」 教師の本音を聞くと、今まで厳しく詰るようだった義光の口調が、柔らかいものに変わった。 「今更嘘をついたって、仕方ないじゃないか」 一方、義光に追い詰められていた教師は、言うつもりのなかった本心を明かさなければならなくなり、恥ずかしさもあって拗ねた声を出す。 「あーもう、可愛いなあ」 「年上の、しかも先生に向かって可愛いって言うな」 「だって、可愛いもんは可愛いんだもん」 義光は教師の文句も意に介さず、すこぶる機嫌よく言った。 「先生、気がついてた? 俺達、両想いだったんだな」 「は……?」 「なんだよ、こんなことなら、最初から遠慮することなんてなかったじゃん」 「ち、ちょっと待って」 ウキウキと弾んだ様相の義光に、教師は戸惑いを隠せない。 「君が僕を好きになるだなんて、あり得ない。僕はゲイじゃない。大人をからかってそんなに楽しいか」 「俺は本気だ。先生がゲイだろうとノーマルだろうと、この際関係ないね。俺を好きならどっちだっていい」 「好きって、そんな」 「ああもうホント、素直じゃないな。俺の隣にいた奴に焼きもちまで妬いた癖に」 「それは」 「焼きもちじゃないって言いたいわけ。んじゃ、いいこと教えてやろうか。先生が廊下で見たっていう、俺の隣にいた子。あいつは、俺が時々ドラムを叩かせてもらってるバンドの、リーダーの彼氏だよ。俺はああいう背が低くて可愛い系の顔の子より、アンタみたいにタッパもそこそこある、普通の男が好みなの」 「え?」 「だけどあの可愛い子ちゃんのご機嫌損ねると、助っ人に呼んでもらえなくなるかもしれないじゃん。そりゃもう、気を使うのなんのって」 「……」 「なんて顔してんだよ、先生」 義光は、教師の股間から手を離した。 安堵したような、今にも泣き出しそうな顔をもっと間近に見たくて、教師の顎を持ち上げようとしたのだった。 「ん、ふっ」 けれど、義光の大きな手のひらの感触に身体が慣れはじめていた教師は、覆っていた温もりの代わりに玄関口のひんやりとした空気に自身を晒されただけで刺激を受け、堪えきれずに再び声を上げる。 教師の喘ぎを聞いた義光は息を呑んだ。 「もーう、先生は。俺を煽るなって言ってるそばからこれだよ」 |