My sweet baby 12

 眼光鋭い義光の瞳に捉えられ、教師は観念するしかなかった。
「僕はただ…… ただ君と、ほんの少し仲良くできればそれで良かったんだ。学校の廊下ですれ違った時に、君の友達を交えて一言二言、談笑する程度の。けれど勇気を振り絞って話しかけてみても、君は僕のことなんか気にも留めてくれやしない。やっぱり僕みたいに目立たない人間では相手にされないんだと、落胆したよ」
「は? 話しかけられて困るのは、先生の方だろ。学校で俺の周りにいる奴らはタカを除けば、俺が助っ人で入ってるバンドのファンか、俺狙いのゲイだぞ」
「それでも君に無視されるよりはずっといい」
 教師の言葉に、義光は眉をしかめる。
「俺がいつ、アンタを無視したよ」
「初めて話をした日から一週間後ぐらいだったかな、廊下を歩いてくる君と出くわしたのは。君はどこかの教室へ移動する途中だった。急いでいる様子ではなかったけれど、図書室でのことを謝るチャンスだと思って身構えていた僕には見向きもしないで、横を通りすぎていった」
「そんなことあったっけ、気がつかなかったな。ごめん。そりゃ、俺が悪かった」
「仕方ないよ。君には隣にいる同級生しか見えていなかったから。小さくて可愛らしい男の子だったね。その子の分の教科書も持ってあげたりしてて。君は誰にでも、ああいう親切なことをするの」
「あー、ええっと…… まあなんていうか…… その…… スミマセン」
 都合の悪い場面を目撃されていたと知った義光の目があらぬ方へ泳ぎ、自分に向けられていた強い視線が外されて、教師は饒舌になった。
「謝るようなことじゃない。君には関係なく、僕の気持ちが勝手に浮いたり沈んだりしていただけだ。可笑しいだろ、僕は教師だよ。生徒はみんな平等に扱うべきなのに、君のこととなるとどうも調子が狂う。だから今後一切君には関わらない決心をして、傘と本を渡したんだ」
「なんだ、それ。始まってもいないうちから勝手に終わらせてんなよな。調子が狂うのはお互い様だ。ったく、俺がどれだけ苦労してこのアパートを探したと思ってんだ」
「だから、僕のことなんか放っておいてくれれば良いと言っただろう。それなのに君がひどく息を切らして玄関先に立つから、あんなに必死になって僕を心配してくれるから、君が廊下を一緒に歩いていた子より僕を見てくれているような錯覚をして、嬉しくてつい部屋に入れてしまったんじゃないかっ……!」




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あきゅろす。
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