花眺メル 8


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 連休二日目。
 昨日聞いていた通り練習風景を撮影するために、ビデオ制作会社の人達が来た。
 カメラは三台。
 正面に固定したカメラと肩に担ぐタイプのカメラと、一般家庭で使うようなハンディカメラ。

 そんなに撮影して、一体何に使うんだろう?

 昨日からの僕の疑問は、まだ解決されていなかった。あれから何となく松浦と話しづらくて、お喋りな僕にしては珍しく、朝の挨拶しかしてなかったんだ。
 妙に慌ただしくて、それどころじゃなかったこともある。
 何がそんなに忙しかったのかって?
 それは……

「ギャー、今井、ちょっ、今井ちゃん! ちょっと来てー!」

 ほらきた、大騒動の元凶が。

「今度は何ですか、タカ先輩」
「ああん、今井ちゃんっ。よかった、いたのね! あのね、わたしのジャージの脇が、脇がね。ちょっと動いたら、ビリッて……」
「ああ。じゃあ、ちゃちゃっと縫っちゃいますから、ジャージ脱いでください」
「え? ここで、脱ぐの?」
「先輩下にTシャツ着てるでしょ。そんな大きなナリして、恥ずかしがらないでくださいっ!」
 ちょっとした成り行きで、僕がお裁縫を得意としていることがみんなにバレてしまったのが、災難の始まりだった。
 僕のお母さんは注文を受けて自宅で服を作ることを仕事にしていて、僕は子供の頃から服や帽子やバッグなんかは、全部自分で作る物だと思って育ってきた。
 姉ちゃんはその方面にさっぱり興味を示さなかったから、その分お母さんは僕にお裁縫を教えることに情熱を注いでくれた。
 誰かが身に付けてくれる物を作り上げるのは満足感があって楽しかったし、服や帽子のデザインを自分であれこれ考えたりすることも面白かった。
 けれど中学生にもなると男子がさすがに「趣味は服作りです」とは言いづらくなって、僕がお裁縫を得意なことは友達にも内緒にしていたんだ。
 それなのに、今日穿いてきたポケットがいっぱいついたハーフパンツを女子高生のお姉さま達があんまり褒めてくれるから、
「いやー実はコレ、僕の手作りなんですぅ」
 と、調子に乗ってカミングアウトしたのが運の尽き。
「今井ちゃん。アンタ、うちの衣装部に就職決定ね!」
 そういうことになりました。

 お母さん、喜んでください。
 「うちの衣装部」というのがどこの衣装部なのかは今ひとつ不明ですが、就職氷河期といわれるこのご時世に、中二にしてもう職が決まりましたよ。
 手に職を持つ人間というのは、いつの世にも重宝されるものなのですね。
 ありがとう、貴女のお陰です。

 それと、
「タイシ、いい子を連れて来てくれたわね。アンタにしては、でかしたわっ!」
 タカ先輩に背中をバンバン叩かれながら松浦が褒められたことも、少し嬉しかった。


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 連休最後の日。
 今日はゲネプロといって、本番と全く同じただ客席にお客さんが入っていないだけの、リハーサルをやるんだそうだ。
 本当は本番の直前に演奏する会場でするものらしいんだけど、場所が高校の体育館なのでそういうわけにもいかないらしい。
 もちろん衣装も本番通りだから、今日はみんな高校の制服姿だ。

 T高の制服はオーソドックスなブレザーで、色は淡いグレー。
 左胸に校章のエンブレムが付いていて、男子は白いワイシャツにネクタイ、ズボンは上着より濃い色のグレー。
 女子は丸襟の白いブラウスにリボンタイ、男子と同じ濃いグレーのスカートには細いヒダが沢山入っている。
 ネクタイとリボンの色が学年別に分けられていて、現役三年生の松浦のお義兄さんとギターの亮太さんは濃い緑、二つ上の卒業生のタカ先輩とドラムの小笠原先輩はくすんだ赤、ひとつ上のベースの前原先輩が、深い青色だ。




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