「お前まだ高校生だろ。思春期の身体の成長の妨げになるし、補導でもされたら停学処分になるんだぞ」 「なになに、朝っぱらから俺の心配してくれんの? ……先生」 義光は十六才、高校一年生だ。 身長が百八十一センチある彼はこれ以上『成長が妨げられ』ても痛くも痒くもないのだが、教鞭を執る恋人の教育者らしい物言いをつい茶化してしまったのは、嬉しさからくる照れ隠しだった。 中学に上がった年に自分の性癖を両親に告白した義光は、それ以来親から疎まれるようになり、家の中ですっかり孤立している。 一度外出すると家に帰りづらく、今日のように外泊する日が増えたのだが、義光に興味の無い両親が心配したり叱ってくれるはずもない。 他人から心配されるということは、自分がまだ必要とされているのだと認識できる、唯一の物差しだった。 しかし心配され慣れていない義光は、天の邪鬼の性格のせいもあって、素直に喜びを表現できない。 特に好きになった相手の前では、弱味を見せたくないこともある。 義光が幼い頃から興味を持つ人間は、常に自分と同じ男だった。 初めて夢精した十才の日の朝、聡い彼は自分の性の対象が同性であることに、はっきりとした自覚を持った。 義光のふざけた返答を聞き、不機嫌な顔をして再び黙り込んだ目の前の現在の恋人も男性であり、彼が通う高校の教師だった。 **** 義光と恋人との出会いは、入学式があった四月。 新一年生と大学を卒業したばかりの新任教師として、舞台上と下に別れ、同じ高校の体育館に立った日が始まりだ。 しかし、その時は壇上のマイクに向かって挨拶をする新米教師を下から見上げた義光が、欠伸を噛み殺しながら式の退屈凌ぎに、この人割と好みかもと考えただけに過ぎなかった。 義光の好みらしく中肉中背で眼鏡をかけていること以外、これといって特徴のない顔をした教師は、同じく新卒で着任した、元は高校球児だったという快活な体育教師に話題をさらわれ、入学式からひと月も経てば、生徒たちからすっかり忘れ去られた存在になっていた。 それは新米教師が教科担任にならず、授業で一度も顔を合わす機会のなかった義光も同様で、二人が直接言葉を交わしたのは、五月に入ってからだった。 @申し訳ございません、文中の日本語が間違っておりました。 [誤]教鞭に立つ恋人の教育者らしい物言いを ↓ [正]教鞭を執る恋人の教育者らしい物言いを に訂正させていただきます。 立つのは教鞭でなく教壇ですね。お恥ずかしい限りです。 今まで変だなあと皆さんに思われていたのかと考えると、穴があったら入りたいくらいです。土下座・゚・(*ノД`*)・゚・。 |