「全く、しょうがねえなぁ」 高遠を引き留めるのは諦めた小笠原が亮太の隣にやって来て、どっかりと腰を下ろした。 「で、亮太。当然俺に入って欲しいだろ? お前たちのそのセッション」 「先輩、入ってくれンの?」 「リーダーの許可が下りたんだ。セッションするくらい、いいだろ。それにお前が俺達に楯突いてまでヤりたがるベースって、かなり…… キテるよな?」 小笠原の変わり身の早さに驚いた亮太は、思わず訊ね返す。 が、胡座をかいた小笠原が伸ばした背筋をわざわざ前屈みに傾けて、亮太の股間を覗き込みながらニヤリとすると、慌てて調子を合わせた。 「うん、キテるキテる。今、九十度くらいかな」 「じゃあそれ、垂直になるまでもってこうぜ。俺が入れば感じまくって、ビンビンにおっ勃つってもんだろ」 「俺、ギターとスコア取ってくる」 亮太は嬉々として立ち上がった。 一度反対した手前、小笠原は俺も混ぜて欲しいと、素直に亮太に頼むことができない。 それで下ネタを使って誤魔化しつつ、うやむやのうちにセッションに入り込もうという魂胆なのだ。 しかしそれは亮太には、お前が見込んだベースとなら演ってもいい、お前の耳を信じているからと、小笠原に認められたようで、全く悪い気はしないのだった。 亮太がギターを取りにその場を立ち去ってしまうと、今度は晴が慌てる番だった。 「みんなでセッションするの? 俺は? 俺も入っちゃ駄目?」 「お。うちの王子様も、やる気になってんなー」 そうこなくちゃなと、小笠原は破顔する。そしてくしゃりと皺の寄った顔を、マエハラに向けた。 「てなわけだからマエハラサン。アンタも早く服着て、準備してくれよ。すぐ始めんぞ」 それまで床に両手をついて顔だけを起こし、三人のやり取りを見上げていたマエハラは、小笠原に優しい笑顔を向けられ、みるみるうちに青ざめていく。 「そ、そんな、駄目です!」 「え、駄目なの!?」 思いもよらないマエハラの拒絶に、三人が同時に驚きの声を上げた。 それに負けじと、マエハラはか細い声を張る。 「あ、あなた達、さっきのポロシャツさんの説明を聞いていたでしょう!? 僕はバンドキラーですよ? 僕なんかと演奏したら、あなた達のバンドが潰れてしまう……!」 P44へつづく 暫くお待ちくださいませ |