七夕 5

「何だ?」
「あのさ。松浦って晴さんのこと、どんな風に好き?」
「ええっ!」
 赤くなって固まってしまった松浦に、僕は呆れて言う。
「そんな、今更恥ずかしがらなくても。高校を卒業したら晴さんに告白するって教えてくれたのは、松浦だよ?」

 松浦はずっと前から血の繋がっていないお義兄さん、晴さんのことが好きだった。
 僕は告白される少し前に、オガ先輩から突然キスされたことがあったんだけど。
 からかわれていると勘違いして松浦の前で泣いてしまった僕を、今井それは違うと慰めてくれて、その時にお前が大事なことを教えてくれたからと、彼も秘密を教えてくれたのだ。
 口数が少なく生真面目で、オガ先輩とのことも他の人のように決して茶化したりしない松浦を、僕は信頼しているしとても好きだ。
 そして彼の意中の人である晴さんのことも、大好きだ。
 でも僕が晴さんのことを思う好きと、松浦が晴さんを想う好きは違う。
 そのくらいは僕でも分かる。
 それならオガ先輩が僕のことを好きだと言ってくれる、好きは?
 それに僕だって、先輩のことは嫌いじゃない。どっちかと訊かれれば、好きだ。
 じゃあ、この好きは?
 考えれば考えるほど分からない。

「今井もしかして、五ヵ月もずっとそうして考えてたのか?」
「うん」
 思い切った僕の告白を聞いて、松浦はさっきとは違う様子で固まっている。
 僕、何か変なことを言っただろうか。
「義光さんにその話は」
「してないよ。バレンタインデーに新曲出してから、“オブシディアン”も忙しくなっちゃったでしょ? オガ先輩と二人きりで会う暇もそう無かったし、それに…… こんなこと先輩に言うの、恥ずかしいよ」
「今井、それこそ今更だ」

 え、どうして?
 今度は僕が呆れられる番?

 はてなマークをいっぱい貼りつけた僕の顔を見て、松浦はハァと、軽くため息をつく。
「じゃあ訊くが。お前、小谷のことは好きか?」
「小谷? そりゃまあ友達だし、普通に好きだけど。どうして今、小谷の話?」
「いいから。それなら、小谷がもし今井が好きだ、付き合ってくれと言ったら?」
「小谷が僕に? いやいやいや。ないよ、それはない。第一、小谷は男だよ?」
 僕は苦笑いをしながら、そう答える。
「義光さんも男だぞ」
「……あれ?」
「小谷のこと、好きなんだろう? それでも告白されたら一刀両断なのに、義光さんだと何ヵ月も悩むのは何故だ?」
「……あれ?」
 僕が大きく首を傾げると、松浦はまたため息をつく。
「小谷も気の毒に」
「あれ? え、今のは例え話でしょ?」
「あいつ、結構前から頑張ってアピールしていたぞ。弁当持参でもない小谷がわざわざオレ達と教室で昼飯食うの、おかしいと思わなかったのか」
「僕、小谷はコンビニのおにぎりが好きなのかと」
「学食のAランチの方が、おにぎり三つ分より安くて量が多くて美味い」
「へー、ふーん。そうなんだ……」

 松浦の冷静な分析に頭がついていけない僕は。
 電車が駅に停まり、ピリリリリと発車の合図が鳴って動き出しまた次の駅に停まるまでの間、たっぷりと無言で座っていて。
 それからおもむろに松浦の左腕に取り縋った。
「ま、松浦っ。僕、明日からどうしようっ!」
「大丈夫だ。今井には恋人がいる。そして小谷は、明日から学食に行く」
 ニヤリとする松浦。

 黒い、何か黒いよ、松浦君!






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あきゅろす。
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