携帯電話の受信メールを開くとタイトルに、 [今日は七夕ですね] と、あった。 『七夕』 「なぁ、今井。お前ってさ、毎日昼休みになると携帯チェックしてるけど…… 何? 彼女からのメール?」 「えっ」 咄嗟に上手い返事がみつからず、言葉に詰まってしまったのがいけなかったのだろうか? 「えっ、マジ!? 今井、彼女いるの? ……松浦は知ってた?」 そんなに驚かなくてもいいと思う。 学校の昼休み。 弁当持参組の僕達は、毎日お昼ご飯を教室で食べる。 一年時のクラスがそのまま三年間持ち上がりだから、彼らと昼食を一緒に食べるのも、もう今年で三年目だ。 僕と松浦と小谷。 たまにあと二、三人加わることもあるけれど、今日はこの三人だった。 「彼女…… ではない。恋人だ」 「恋人!?」 「ま、松浦っ!」 松浦の答えに、小谷と僕は同時に叫ぶ。 低くて渋い良い声で何てことを言ってくれるんだ、この馬鹿正直な僕の幼馴染みは。 紹介が遅れたけど、僕の名前は今井祐一。 高校三年生だ。 そして僕の隣の席に座ってとんでもないことを言ってくれたこいつは、松浦大志という。 僕と松浦は、彼が小学五年の冬に転入生としてやって来て以来、小六、中学、高校とずっと一緒のクラスなんだ。 家が近いから公立の中学まで同じなのは当たり前なんだけど、この私立の高校には先に推薦で入学が決まっていた彼を、僕が追いかける形で受験した。 小谷は高校に入ってからできた友達だ。 この高校―― J学園は、県内では有名な学校で、有名なのにはわけがある。 それは一芸に秀でた学生にしか、入学が認められないからだ。 僕と松浦の母校である、S中学始まって以来初の(と、噂された)推薦合格者の松浦は油絵。 僕の前の席に座っていて、驚きのあまりコンビニのおにぎりを床に落とした失礼な小谷は、舞台芝居。 そして僕は、バレエダンサーが着る舞台衣装を得意とする衣装製作。 それぞれ美術専攻、芸能専攻、被服専攻で、普通科高校の授業以外にも特に芸術方面に長けた生徒を育てることに熱心なこの学校で、専門的な授業を受けている。 ただどれだけ得意なものがあっても、やはり創立百年の歴史あるJ学園に入学するには、ある程度の偏差値は必要なわけで。 今から二年半前の中三の冬に、 「J学園を受験する」 と僕が宣言した時、周りで驚かなかったのは松浦のお義兄さんである晴さんと、毎日こうしてお昼時にメールを送ってくる、小笠原先輩の二人だけだった。 僕は自分で言うのも何だけど、全てにおいて平均的な普通の男子高校生だ。 顔の造りも身長も運動神経も、学校の成績さえも。 この成績でJ学園に合格する筈がないだろう、と言われた受験の年、 「俺、キョーカショ見ると目眩がする」 と、申し訳無さそうに僕の手をキュッと握った晴さんの代わりに勉強を教えてくれたのが、小笠原先輩だ。 「俺も中三の時、クラス担任にJ学はどうかと勧められてさ。それで親と揉めたんだよな。いやぁ、あの頃は若かったなー」 遠い目をして呟いた、僕より六才年上の小笠原先輩は、確かに先生にJ学園行きを勧められただけあって頭が凄く良くてそして…… とんでもなくスパルタの家庭教師だった。 外見はタレ目の優しい顔をしている癖に、これは詐欺だと思う。 まあそのお陰で、僕はJ学園に合格できたんだけどね。 [*前へ][次へ#] [戻る] |