花眺メル 6


「こらアンタ達っ、何やってんの! 早く舞台の前に集まんなさいっ!」
 何だかもう収拾がつかなくなっているこの状況を、見事にまとめあげる人が現れた。
 バンドのリーダーで、タカ先輩と呼ばれている人だ。
 年は松浦のお義兄さんより二つ上だと聞いてるけど、卒業してる筈なのに何故か高校のジャージ姿。
 百八十センチはありそうな長身で、怒り肩、筋肉質なのが着ているジャージの上からでも分かる。
 金髪に近い茶色の髪をちょんまげのように頭の天辺で結んでいて、使っているゴムの色はジャージと同じ紺色という、意外にお洒落さんだ。
 ただその…… 言葉遣いが、おかま……
 いやええっと…… すごく、女らしい。
「やーん、タカ先輩。何でうちらと同じジャージ着てるんですかぁ? 卒業して二年は経ってませんかぁ?」
「キャー、タカ先輩のコスプレ、ウケるぅ」
 女子高生のお姉さま達が言葉遣いにツッコミを入れないところをみると、どうやらこれが普通らしい。
「そりゃそうよ。ハルと亮太とアンタ達の高校生活最後の文化祭なんですもの。盛り上げるためなら、わたしはコスプレだって何だってするわよ。制服も用意してあるの。さあ、もうすぐダンスの先生がいらっしゃるから、みんな気張って練習してちょうだいね」
「はいっ、タカ先輩!!」

 すごい。

 海千山千のお姉さま達を黙らせたばかりか、ビシッとやる気にまでさせてしまった。
 そして制服もということは、タカ先輩。
 あなたは文化祭の本番で、高校の制服を着るおつもりなんですね?


 ダンスの練習は、素人の僕からみても本格的でとても厳しいものだった。
 シロウ先生と呼ばれるダンスの先生は、細く引き締まった体つきの男の人で、松浦に聞いたところではプロのバレエダンサーなんだそうだ。
 先生は最初に出演者全員を舞台に並ばせておいて、観客側のベンチに立っている松浦を振り返り、
「大志、眺めは?」
 大きな声で訊ねた。
 手にはさっき松浦が描いていた、スケッチブックを広げている。
 松浦がベンチの上から両腕でオッケーのサインの代わりに大きな丸を作ると、
「じゃあ、今井君。前に出ている子の所にアタリをつけて」
 白いビニールテープを持って舞台上に立っている僕に、てきぱきと指示が飛んできた。
 僕は持っていたテープを短く二枚切ると、一番前の列にいる女子高生達の足下に、バッテンコの形になるように貼っていく。
 これはアタリといって、ダンサーが踊っている最中にポーズを決める時、自分が立つ位置の目印にするものなのだそうだ。
 そうやってスケッチブックを見ながら大きく動きが変わる所にダンサー達を立たせて確認し、松浦のOKサインが出ると僕がテープを貼っていく。
 自分の描いたスケッチを元に、先生から「眺めは」といちいち確認されて、それにオッケーを出す松浦って一体何者?
 後で問い詰めてやらねば。
 一通りアタリの確認が終わったところで、一度舞台から降りたダンサー全員が柔軟と軽い準備運動をして身体を温めると、すぐにダンスの通し練習が始まった。
 僕はもうすることがないので、舞台の下に用意されたパイプ椅子に座って観客の役だ。
 ダンスの稽古だから、音源はCD。
 バンドメンバーは、楽器を持って演奏している真似をする。
 松浦のお義兄さんもダンサー達と振り付けを合わせるために、マイクを持って舞台の真ん中に立った。
 歌っている最中に動き回るダンサーとぶつからないように、事前の確認が必要なんだって。




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あきゅろす。
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