鬼は外 終

 ひとしきりハルと父親のイチャイチャぶりを見せつけられて、オレの機嫌はすっかり悪くなっていた。
「大志。僕の食べるご飯、ある?」
 コートとマフラーを脱ぎキッチンに入ってきた父親に、オレは手近に転がっていた殻付きピーナッツをひとつ、投げつけてやった。
「あ、痛い。大志、何するんだい?」
 オレとそっくりな顔でオレが決してできない、にこにこと愛想の良い笑顔を作り、気を悪くした風でもないタイセイを暫く睨む。
 そしてキッチンテーブルに頬杖をついたままプイと横を向き、オレはボソリと呟いた。
「鬼は外」
と。


*****


 半年振りの男三人での食事を済ませ、風呂に入って温まってこいというハルの命令を大人しくきき、その後オレはリビングのソファーで微睡んでいた。
「義父さん、そこのブランケット取ってよ」

 ハルの甘い声が、頭のすぐ上から聞こえてくるのは何故だろう?

 ソファーに横たわった身体に毛布の掛けられる感触があったが、眠くて目が開けられない。
「おやおや、これじゃあ小学生の頃と変わらないね。身体は物凄く大きくなったのにね。晴くん足、重くないかい?」

 アンタには言われたくないね。

 オレは微睡みながら、父親に悪態を吐く。
 どうやらハルに膝枕をして貰っているらしいことにも気づいたが、風呂に入って緩んだ身体はそう簡単には動かない。
「今日は頑張って友達と沢山喋ったみたいだから、疲れたんだよ、きっと」
 重くないから大丈夫だよ、と彼の優しい声がする。
「へえ。大志にも、友達がいるのかい?」
 意外そうなタイセイの声に、

 大きなお世話だ。

 と思ったが、
「まあ、この子は高校を卒業したら働くつもりでいるみたいだから、外で上手くやっていけないと困るよね。雨以さんは、大学に行かせたいみたいだけどね」
 父親の言葉に、少なからず驚く。

 何でアンタが知ってるんだ、そんなこと。

 オレは高校を出たら、きちんとした会社に就職してサラリーマンになり、初月給で指輪と花束を買い、ハルにプロポーズをするつもりでいた。
 婚約指輪は給料の三ヵ月分とよく言うが、三ヵ月も給料が貯まるまで待つ気はなかった。
 実を言うと、それくらい焦っていた。
 只でさえ四つも年下で、大学などに行っていたら卒業する時オレは二十二でも、ハルは二十六になっている。
 いくら母親、ウイの承諾を得てはいても、俺達の密約を知らない当の本人のハルが、それまでひとりでいてくれる保証はどこにもなかった。

 今でさえ恋人がいないことの方が、不思議なくらいなのに。

 そう思ったらだんだん腹が立ってきて、オレは彼の太ももからガバッと起き上がり、父親に向かって叫んだ。
「アンタ、うるさいっ。あっちへ行けっ!」
 いつにないオレの剣幕に、目を丸くしているハル。
 しかし噛みつかれた張本人タイセイは、のほほんとした顔で言った。
「おお、怖い。自分の大事な飼い主さんに近寄るなと、大きな犬に吠えられてしまったよ。晴くん、どうしよう?」

 夕方までのほくほくとした幸せな気分がすっかり台無しだ。
 おまけに肝心な所を、狙い澄ましたように邪魔された気がする。
 オレは言い返す言葉もみつからず、本物の犬のように、
「ウウーッ」
と、唸るしかなかった。


2010.02.08
改訂 2010.04.19
再改訂 2011.05.23
加筆修正 2012.12.04




*タイシ、頑張って喋ってくれました。だんだん犬のようになってしまったのには笑えます
*タイセイさんは久し振りの登場で、あれはないですよね。計算づくで出て来ているとしか思えません(笑)




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あきゅろす。
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