改札を抜けた所でオレがいることに気づいたハルは、驚きに目を瞠りすぐに駆け寄ってきた。 「タイシ! いつから待ってたんだよ?」 男の人にしては少し高めの、甘く優しく良く通る声。 この人は、元々日本人よりもデンマーク人の血の方が色濃く顔に表れていたけれど、二十歳を過ぎた頃から益々日本人には見えなくなり、そしてとても…… 綺麗だ。 ガードレールに腰掛けたままいつもとは違い、小学生の頃のように彼を見上げる形になる。 言葉が何も出てこずボーッと見惚れていると、ハルの両手が伸びてきてオレの頬を包み込んだ。 「どれくらい待ってた? こんなに冷たくなって」 オレを労るように優しくかけられた言葉にも、フルフルと首を振ることでしか答えられない。 そんなオレの顔をじっとみつめていたハルが、あ、と小さく声を上げた。 「お前、何かいいことがあっただろ。俺に教えてくれる気、あるわけ?」 どうして分かったんだろう? 今度はオレは、コクコクと頷く。 どうもハルに対してだと、尻尾は不要のようだ。 もしかしたらオレの胸がドキドキしていることも、気持ちがいっぱいいっぱいで何も言葉が出てこないことも、彼には全てお見通しなのかもしれない。 「よし、じゃあ家に帰ってからゆっくり聞こう。ここ寒い。ほら、タイシ」 当たり前のように差し出された彼の手を、オレはそっと包み込む。 オレ達の横を通り過ぎていく、駅からは徒歩帰りの学生やバス待ちのサラリーマンがチラチラとこちらを見ていたが、人に見られることを仕事にしているハルは全く気にしていない。 だからオレも我慢する。 人に見られる羞恥より、彼の手を離してしまうことの方が苦痛だから。 「もう暗いから、あんまり目立たないよ」 オレの考えていることが分かるらしい彼が、にこっと笑う。 その笑顔にオレは幸せで胸が一杯になり、涙が零れそうだ。 この人に、ハルに巡り会えたことは、オレにとって奇跡だった。 それとも十一年の孤独に耐えたオレへの、神様からのご褒美か。 どうかこの幸せがずっと続きますように。 オレは心の中で、そっと祈らずにはいられなかった。 ***** 「ユウイチが、そんなことを?」 晩飯をキッチンテーブルに並べながら、ハルが嬉しそうに言った。 「そう…… タイシ、良かったな。今度会ったら俺もお礼を言わなくちゃ。それとも抱きしめて、ほっぺにチューしてみようか? ユウイチに免疫がつくように」 いや、ハルさん。 いくらあなたでも、それは止めておいた方がいいのでは。 というか、他の男にキスなどして欲しくないのですが。 黙っているオレには構わず、ねぇタイシと、彼は続ける。 「この巻き寿司どれも傑作だけど、肝心の鬼がいないぞ? お前、ネットで真っ先に作り方を調べてたの、鬼じゃなかったっけ」 ハルには敵わない。 何でもお見通しだ。 「え? ええっと…… 鬼、鬼は外へ…… ワッ!」 今井に持たせてしまったと言ってもこの人は怒らないだろうが、目を泳がせしどろもどろになっているオレに、突然豆が飛んできて当たる。 家の中が汚れることが嫌いなオレは、節分で撒く豆は殻付きのピーナッツと決めていた。 どうせ近いうちに義光さん達が何かしらの理由をつけてやって来てどんちゃん騒ぎを始めるだろうから、その時のつまみも兼ねて大袋の物を買った。 「鬼は外!」 その袋をハルが抱えて中に手を突っ込み、握りしめたピーナッツをオレに投げつけてくる。 |