オレが対処に困りハルを見ると、 「オガ先輩に車で送って貰うから、俺のことは心配しなくていい。それよりユウイチを頼むね」 と言われ、それならと、 「義光さん車乗るんだから酒、飲まないでくださいよ」 何故だか彼の持ち場であるバーカウンターから出てこようとしない義光さんに釘を刺すに留まり、今井を家まで送り届けたのだが。 あれからひと月も経つというのに、彼からはまだ何の相談もない。 オレってそんなに頼りにならないかな。 今まで助けて貰ってきた分、オレも今井の助けになりたい。 電車に乗ってからずっと下を向いて自分の鞄をみつめたままの彼をそっと横目で窺い、どうしたのか何かあったのかと訊くに訊けず、同じフレーズがグルグルとオレの頭を回っていた時、 「松浦って晴さんのこと、どれくらい好き?」 囁くように訊ねられ、我が耳を疑う。 今何か、とんでもないことを訊かれはしなかったか? 顔が強ばったまま隣の今井に首を回すと、彼はオレを見上げている。 その目の光が結構強くオレを真っ直ぐに捉えていて、冗談を言っているようには思えない。 返事ができずに固まっていると、 「晴さんにキスしたくなる時、ある?」 また訊かれたオレは、 「キ、キッ…… え、何? ……えっ?」 一度だけ、寝ているハルにそんなことをしてしまいました。我慢がきかずにごめんなさい。 と、正直に告白などできる筈もなく、しどろもどろになってしまう。 そんなオレを見てフフッと、今日初めて笑った今井が何だか可愛らしく…… いや、違う。 何だか影があり色っぽく大人びて見えて、目を瞠った。 「同じ経験者でも、随分反応が違うんだね」 彼がオレと誰かを比べているのは明らかで、とても気になり、 「どうした。何かあったのか?」 と、オレはやっと訊ねる勇気が出たのだった。 「うん」 ところが今井は返事をして前に向き直り、ひと呼吸置いてから、 「オガ先輩にキスされた」 衝撃の発言を。 それを聞いたオレが再び固まってしまったのを見ると、彼は慌てて言い直した。 「あ、違う違う。松浦が考えているようなところにじゃないよ。おでこにだよ。それにこんなの遊びだって言われたし。もういいんだ、忘れることにしたから」 前をみつめたままそう続ける彼に、オレはゴソゴソと鞄の中を探りポケットティッシュを無言で差し出す。 それならどうして泣いてるんだ、今井。 |