「どうだったー?」 演奏が終わって、再びお義兄さんが僕らの所へ駆け寄ってくる。 と思ったら、あと一メートルというところで立ち止まってしまい、困ったような顔をして僕を見上げた。 初めはそれがどうしてだか、僕には分からなかったんだけど…… あ、しまった。 松浦の腕を掴んだままだったことに気がついて、僕はパッと手を離す。 やっぱり兄さんっていうのは自分の弟が馴れ馴れしくされているのを見ると、気分の良くないものなのかな? 僕は男の兄弟がいないから、そこんとこよく分からない。 「や、これはあの、演奏があまりに凄すぎて、思わず……」 とか、変な言い訳までしてしまったり。 助けを求めようにも、松浦は一心不乱でスケッチブックに何やら描いてるし。 松浦、キミはヘタレなだけじゃなく、空気も読めない男だったのですね。 コイツは頼りにならないと困っていると、 「晴(ハル)ち〜ん。踊りにきたよ〜ん」 「あ、みっちゃん! 来てくれたんだー」 キャッピキャピの女子高生が、僕らの間に割り込んできた。 しかも彼女の後ろから、お揃いの紺色のジャージ姿が続々と。 もしや午後から来るダンサーというのは、この方達のことでしょうか? うわ、きょうれつぅ! ……違う違う、ここは困っているところを助けてくれてありがとうと、感謝すべきところだ。 僕とお義兄さんの間にあった微妙な空気が無くなってホッと胸を撫で下ろしていると、隣で黙って何やら描いていた松浦がそっとスケッチブックを閉じて立ち上がり、そそくさとどこかへ行こうとしている。 「松浦、どこ行くの?」 という僕の言葉を、お義兄さんと一緒にキャッキャとはしゃいでいたみっちゃんという名の女子高生が聞きつけて、松浦を見上げた。 「あーっ! 大志じゃーん。一年振りぃ? アンタ背、また伸びたんじゃなーい? どれどれ、お姉さんに顔を見せてごらーん」 既に僕らに背中を向けていた松浦の肩が、ビクッと震えてそのまま固まる。 「ほら大志、早くぅー」 何とも大胆な年上女性からのお誘いに観念したのか、 ギ、ギ、ギ、ギ 音がしそうなくらいぎこちなく、松浦の首だけがこちらに向けられる。 もちろん彼の口元は見事なへの字。 ごめん松浦。 空気が読めてなかったのは、僕もでした。 「やーん、カッコいいっ!」 「え、何? 晴くんの弟ちゃん?」 「中二? うっそー、見えなーい」 「背、あたし達より高いんだー」 「兄弟揃ってイケメンなんだねー」 おおっ、デジャヴ! これはもしや、毎朝学校で繰り広げられている光景と同じでは。 僕達のいるベンチが、紺色の女子高生達で埋め尽くされてゆく。 それだけでも恐ろしいのに、 「やーん、食べちゃいたーい」 などと言われた日には、もはやホラー。 さすがJK。クチバシの黄色いJCとは、格が違う。 僕が他人事のようにこの光景を眺めていると、ひとりの女子高生にガシッと顔を両手で挟まれ、振り向かされざま、 「あーん、こっちもいいよ。濃いものの後は、やっぱさっぱり味だよね」 ああっ、お姉さま。 ずいぶん広いストライクゾーンをお持ちですね。 年季が感じられまする。 |