小笠原は晴とは二才、祐一とは六才も離れている大人の男性だ。 実際彼には年の離れた弟と妹がいて、彼らが幼い頃はよく面倒をみていたらしい。 晴も、日本に帰ってきてすぐの頃に随分世話になったと言っていた。 小笠原は口煩かったがつい手も出てしまう世話焼きタイプの人らしく、祐一に対しても高校受験の時はつきっきりになって勉強を教えてくれたり、衣装を作っている時は徹夜をしてないか無理はしてないかと、随分気にかけてくれる。 祐一にとってオブシディアンスタッフの中で晴の次に一緒にいる時間が長くなったのが、この小笠原だったのだ。 二人の後ろをずっとついてきていたらしい小笠原に、 「もういいだろ。疲れた、帰るぞ」 と言われ、四つ上だが大人ではない晴と一緒に、 「えー」 祐一が不満な声を上げると、 「ホントお前ら、気が合うよな」 小笠原は情けない顔をして、真剣に愚痴り出した。 疲れきった表情を見せる彼を少し気の毒に思った祐一は晴と相談して、皆でおみくじを引いてから帰ることにする。 ――結果は他人に見せてはいけない―― そうなので、四人各々別の方向を向いておみくじを開いた。 あ、大吉だ! 嬉しくなった祐一は自分の結果を教えようと、喜び勇んで晴を振り返った。 しかし、声はかけなかった。 晴と大志がぴったりと身体を寄せて、お互いのおみくじを見せ合いながら笑っているのを目の当たりにしてしまえば、彼らに声をかけることは躊躇われた。 松浦のヤツ、いつもああして笑ってればいいのに。 祐一が大志をみつめながらぼんやりしていると、後ろから大きな掌がポンポンと頭を叩く。 「わ、オガ先輩」 「結んでやろうか?」 「え?」 「おみくじ。高い所に、結んでやろうか?」 「あ…… はい! お願いします」 おみくじを小笠原に渡すと、祐一は彼のさりげない年上らしい気遣いが嬉しくてにこっと微笑んだ。 小笠原は受け取ると即座に向きを変え、まだ何もついていない、彼ほどの長身でないと届かない高さの木の枝に無言のままおみくじを結び始めたので、祐一は気がつかなかった。 彼の顔が赤くなっていることに。 「えっ? 雨以さん、帰ってきてらっしゃるの!?」 おみくじを結び終えた四人が皆の所へ戻ると、高遠が素っ頓狂な声を上げた。 「母さんが家にいるから帰る」 と言った晴に向かって。 「ご挨拶に伺わないと、殺されるわ……」 これは誰にともなく呟く。 祐一は高遠が言っている意味が理解できなかったので、ひとり青くなっている彼にツッコミをいれるべきかどうか迷っていると、その彼にいきなり腕を掴まれ引っ張られる。 「へ?」 「ゆういちっ、行くわよ! 今からが、初詣の本番よっ!!」 「へ?」 「お、おい。祐一も連れて行くのかよ」 と、慌てた様子の小笠原。 「そりゃそうよ。この子はまだ雨以さんに紹介していないもの。今会わせとかないと、次いつになるか分からないじゃないの」 祐一には届かない頭の高い所で、話はどんどん進んでいく。 先程の彼らの会話から察するに、雨以さんとは晴と大志のお母さんだろう。 そのお母さんに自分を会わせるのが晴でも大志でもなく高遠だということが、祐一にはまず理解できない。 「……はぁ、しょうがない。乗せてく」 すると状況を理解しているらしい小笠原が、ため息を溢しながら言った。 「へ?」 「俺の車で送ってってやるよ。俺だって雨以さんに新年の挨拶くらいしとかないと、不味いだろ」 こうして祐一はわけが分からないまま、小笠原の車で晴と大志の家へ向かうことになったのだった。 |