背丈は高校三年生にしては小さい方かもしれないけど、それでも僕より顔半分くらいは高い。 髪の毛は耳たぶが出るほど短くて、絵本に出てくる天使のようにふんわり巻き毛で前髪が額にかかり、顔の小ささを強調している。 髪と目の色が同じ茶色だから、染めているわけではなさそうだ。 そしてその茶色の目が一番印象的で、気持ちつり上がり気味に大きくキラキラ輝いている。 それでも女の子に見えないのは、ぷっくり厚めのちょっと大きな唇の端が、目と同じようにつり上がっているからかな。 この人、顔の造りが左右対称ではなかろうか。 学校の美術室にある、彫刻とかデッサンとかのお手本のような、整った美しい顔。 しかも肌の色が白いので、もう日本人には見えません。 「わー、本物の天使さまだー」 言ってしまってから、僕は慌てて自分の口を両手で塞いだけど、もう遅い。 「す、すみません……」 普段あまり物怖じしない僕だけど、つい小声になってしまう。 でもお義兄さんは気にしたふうもなく、コロコロと笑いながら少し高めのよく通る声で言った。 「それ、褒め言葉だろ。ありがと。ちょっと変わってて、面白いよ」 ああ、天使さま。 いえ、お義兄さま。 どうか僕らを、あなたの顎でこき使ってやってくださりませませ。 午後から舞台の後ろで踊るダンサー達が来るというので、その前に配られたサンドイッチ(何だか妙に美味しかった)で軽い昼食を摂り、バンドだけの音合わせというのをすることになった。 僕と松浦は聞き役だ。 スタジオの出入り口になっている大きな鉄製扉の両脇に、ベンチが段々になるように置いてあって、出口に向かって右側の三段目、つまり一番上に彼と一緒に腰掛ける。 「何だか、競技場の客席みたいだね」 松浦に話しかけていると、 カンカンカンカンッ ドラムスティックを打ち合わせる音を合図に、バンド演奏が始まった。 聞き覚えのある前奏が流れ出し、天使のように綺麗なお義兄さんが歌い出した途端、僕は隣にいる松浦の腕を思わずギュッと掴む。 な、何これっ! 聞き覚えがある筈だ。 今演奏している曲は最近テレビでよく流れている、僕も時々買うお菓子のCMの曲だ。 三人組の人気ロックグループが大勢の学生と一緒に歌って踊る、ノリのいいお馴染みの曲。 けれど…… ねぇ、文化祭で演奏する高校生のバンドって、みんなこんなにレベルが高いの? 僕のイメージだと、ドラムを打つリズムが速かったり遅かったり、ギターを弾く指が辿々しかったり、ボーカルが調子っぱずれだったりして、 「そうだよねー。中間テストが終わったとこで、あんまり練習する時間が無かったよねー。それに大きい音出して練習できる場所なんて、そうそうないしねー」 みたいな。 そんなもんじゃないの? ロボットが叩いてるんじゃないかと思うほど、正確にリズムを刻むドラム。 そこにキーボードの高く軽やかな音が混ざる。 ギターとベースは、そんなに動いてちゃんと弾けてるの? と心配になるくらい身体を動かして、ボーカルに余裕の笑顔を向ける。 そして、そのボーカルは。 確かCMでこれを歌っているのは女の人の筈だけど、キーがそのままですよね? しかもマイク要りませんよね、凄い声量。 あの小さくて、細い身体のどこから出てるんだろう? さっきの話し声と変わらない松浦のお義兄さんのよく通る声が、僕の耳とスタジオいっぱいに響き渡った。 |