花眺メル 4

 背丈は高校三年生にしては小さい方かもしれないけど、それでも僕より顔半分くらいは高い。
 髪の毛は耳たぶが出るほど短くて、絵本に出てくる天使のようにふんわり巻き毛で前髪が額にかかり、顔の小ささを強調している。
 髪と目の色が同じ茶色だから、染めているわけではなさそうだ。
 そしてその茶色の目が一番印象的で、気持ちつり上がり気味に大きくキラキラ輝いている。
 それでも女の子に見えないのは、ぷっくり厚めのちょっと大きな唇の端が、目と同じようにつり上がっているからかな。
 この人、顔の造りが左右対称ではなかろうか。
 学校の美術室にある、彫刻とかデッサンとかのお手本のような、整った美しい顔。
 しかも肌の色が白いので、もう日本人には見えません。
「わー、本物の天使さまだー」
 言ってしまってから、僕は慌てて自分の口を両手で塞いだけど、もう遅い。
「す、すみません……」
 普段あまり物怖じしない僕だけど、つい小声になってしまう。
 でもお義兄さんは気にしたふうもなく、コロコロと笑いながら少し高めのよく通る声で言った。
「それ、褒め言葉だろ。ありがと。ちょっと変わってて、面白いよ」

 ああ、天使さま。
 いえ、お義兄さま。
 どうか僕らを、あなたの顎でこき使ってやってくださりませませ。


 午後から舞台の後ろで踊るダンサー達が来るというので、その前に配られたサンドイッチ(何だか妙に美味しかった)で軽い昼食を摂り、バンドだけの音合わせというのをすることになった。
 僕と松浦は聞き役だ。
 スタジオの出入り口になっている大きな鉄製扉の両脇に、ベンチが段々になるように置いてあって、出口に向かって右側の三段目、つまり一番上に彼と一緒に腰掛ける。
「何だか、競技場の客席みたいだね」
 松浦に話しかけていると、

 カンカンカンカンッ

 ドラムスティックを打ち合わせる音を合図に、バンド演奏が始まった。
 聞き覚えのある前奏が流れ出し、天使のように綺麗なお義兄さんが歌い出した途端、僕は隣にいる松浦の腕を思わずギュッと掴む。

 な、何これっ!

 聞き覚えがある筈だ。
 今演奏している曲は最近テレビでよく流れている、僕も時々買うお菓子のCMの曲だ。
 三人組の人気ロックグループが大勢の学生と一緒に歌って踊る、ノリのいいお馴染みの曲。
 けれど……

 ねぇ、文化祭で演奏する高校生のバンドって、みんなこんなにレベルが高いの?
 僕のイメージだと、ドラムを打つリズムが速かったり遅かったり、ギターを弾く指が辿々しかったり、ボーカルが調子っぱずれだったりして、
「そうだよねー。中間テストが終わったとこで、あんまり練習する時間が無かったよねー。それに大きい音出して練習できる場所なんて、そうそうないしねー」
 みたいな。
 そんなもんじゃないの?

 ロボットが叩いてるんじゃないかと思うほど、正確にリズムを刻むドラム。
 そこにキーボードの高く軽やかな音が混ざる。
 ギターとベースは、そんなに動いてちゃんと弾けてるの? と心配になるくらい身体を動かして、ボーカルに余裕の笑顔を向ける。
 そして、そのボーカルは。
 確かCMでこれを歌っているのは女の人の筈だけど、キーがそのままですよね?
 しかもマイク要りませんよね、凄い声量。
 あの小さくて、細い身体のどこから出てるんだろう?

 さっきの話し声と変わらない松浦のお義兄さんのよく通る声が、僕の耳とスタジオいっぱいに響き渡った。




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