“オブシディアン”のリーダーで事務所の社長の高遠と、ドラムスの小笠原、そして大志の三人は、百八十センチを越える長身だ。 この三人が並んで立っているだけでも、かなりの人目を引く。 近視の高遠はいつも度付きのサングラスを掛けているのだが、眼鏡を外すとギョロリとした大きな目の童顔とは裏腹に、肩は怒り肩、胸板も厚く見事な逆三角形の体型をしていて、まるで水泳かアメリカンフットボールの選手のようだった。 小笠原は垂れ目で笑うと顔にシワが寄る、甘いマスクをした細身の優男。 大志は切れ長の目を持ちはっきりとした顔立ちの、モデルや俳優にもそういないだろうと誰もが思うほどの、男らしい良い顔をしている。 祐一より一センチ背の高いギター弾きの亮太は、短い髪をワックスで立たせ、利かん気の強いやんちゃ坊主の風貌だ。 ベースの前原は目の細い陰気な顔をした男だが、光り物が好きで指輪やネックレス、ブレスレットを百七十五センチの身体中にジャラジャラと巻きつけ、ピアスの穴を耳だけでなく眉や鼻や口にまで開けているので、ある意味目立つ。 祐一は彼を見る度に痛そうと思うが、真顔だけでなく笑顔まで陰気な前原だけはどうにも苦手で、喋ったことは数えるくらいしか無かった。 この団体の中で一番身長が低いボーカルの晴は、外出する時はいつもマスクを付けているので今は顔が隠されていたが、血の繋がった父親が外国人で彼自身も茶色い髪と茶色い瞳を持ち、黙って立っていれば美術館にある彫刻のように中性的で美しい人だ。 ただひとたび動き出すと、彼は小さいワンコに変身する。 この三年と少しの付き合いで祐一が知った晴は、好奇心が旺盛でちょこまかと動き回り、人懐こく、よく笑い、涙もろく、ちょっと拗ねたように怒る、彫像とはかけ離れた感情表現とても豊かな、面白い人だということだった。 彼が半分外国人だと知り最初は近寄り難かった祐一も、笑いのツボが同じ所だったり、好きな色や食べ物や服装やらが殆ど同じだということが分かってきて学校の友達よりもお互いに気が合い、今では企画オブシディアンで活動する時は、必ず一緒に行動する間柄になっている。 そして気が合うだけではなく、祐一は晴を凄いと尊敬もしていた。 彼は皆が『歌バカ』と呼ぶ通り、歌うことに対してとても真摯で努力を惜しまなかったからだ。 いつもマスクとマフラーで喉を保護し、体調管理を怠らない。 歌う時は大きな町のライブハウスだろうが慰安に訪れる施設だろうが関係無く、いつもどこでもフルスロットルだ。 祐一はこれは見習いたいと、常日頃から思っていた。 一同揃って参拝を済ませた後、無料で配られていた甘酒としるこを飲み、これに当たれば無病息災という焚き火に当たる。 「わたし達はこのまま火に当たってるわ」 と言う、口調はおばさんだがオヤジくさい高遠らを残して、祐一と晴は参道に立ち並ぶ賑やかな屋台を見て回った。 的屋のお兄さんとたわいのないお喋りをしたり、店先に所狭しと並べられた商品を物色したりして、喧騒と混雑をかき分けながら二人夢中になって歩き回っていると、 「おい、ちょっと待て」 背後から、聞き覚えのある声が自分達を呼び止める。 振り返ると、小笠原が膝に手をつき背の高い身体を二つに折って、ゼーハーと肩で息をしていた。 この人は高遠と同い年なので、やっぱりオヤジだ。 彼の後ろには、大志もいる。 大志が晴につきっきりなのはいつものことだが、小笠原まで一緒にいることが不思議で、 「松浦と…… オガ先輩? どうしてついてきたの?」 祐一が訊ねると、 「この人混みで迷子になったら困るだろうが」 と返され、顔を見合わせた祐一と晴は、 「毎年来てるんだもん、ならないよねー」 笑い合う。 初対面の時祐一が小笠原に抱いた印象は、ドラムを正確に打つロボットのような人だった。 それが今では心配性のお兄さんに変わっているのだが、これにはわけがある。 |