「だ、大丈夫?」 「怪我はない?」 ポロシャツの二人組が倒された晴と亮太を助け起こそうと、慌てて駆け寄ってくる。しかしそれよりも早く、高遠が彼らの前に立ち塞がった。 「あら平気よ、これくらい。この子達は男の子なんだから。それよりこの方、マエハラサン? は、そちらのメンバーでいいのかしら?」 高遠の背後では晴と亮太が自力で立ち上がり、今のびっくりしたねでも面白かったねと、可笑しそうにはしゃいでいる。上背があり肩幅も広い高遠に行く手を阻まれ、晴にあと一歩近付くことができなった二人組は、その場に立ち止まって謝罪の言葉を口にした。 「そ、そうです。すみません」 「何と言うかその…… 申し訳ない」 「いいえ、謝っていただく必要はないんですけどね」 自分の身体越しに晴をチラチラと盗み見ながら、無念の表情を浮かべた二人の顔を確認して、高遠は続けて言った。 「見ての通り、この子達はまだ中学生なんですよ。暗くなる前に家に帰さなければならないので、こちらの都合で申し訳ないんですけど、できたら早く始めたいわ」 「そ、そうですよね」 「おい前原、立てよ。始めるぞ」 バンドを組んでいる、特にロックバンドのメンバーだなどというと、皆が皆礼儀を弁えずやりたい放題で、恋愛においても誰彼構わず自由奔放なのではないかと、誤ったイメージでみられることがある。 確かに小笠原のように生活全般が乱れに乱れきっているメンバーもいることだし、高遠もそこは全否定はしない。 けれど亮太をバンドに引き込んだ経緯を考えると、親御さんの手前がある。晴に至ってはまだ日本語を充分理解しているとは言い難く、世間知らずのまま優しい言葉をかけられれば、誰にでもついていってしまいそうだ。 この時既に芸能事務所を作って人材の育成を計画していた高遠は、バンドメンバーの私生活までわたしが口出しすることじゃないわと、悠長に構えてばかりもいられない。折角の金の卵に悪い虫が付かぬよう、目を光らせておく必要があった。 「なぁおい、お前ら大丈夫か? 俺、そんなに強く引っ張ってねぇと思うんだけど」 そこへ、小笠原が早足で近づいてきた。 「大丈夫だよ」 「平気、平気」 晴と亮太の無事な姿を見ると小笠原はホッとした表情を浮かべ、次に恐る恐るマエハラサンの様子を窺う。 「で、そちらさんは?」 マエハラサンはまだ、晴と亮太を押し倒した場所にそのまま這いつくばっていた。 「おい前原、早く立てって」 「前原、いい加減にしてくれよ」 仲間であるポロシャツ組が声をかけても返事もせず、そればかりかうつ伏せに倒れていたマハラサンはシートの上で徐々に亀のように手足を縮めると、とうとう小さく丸く踞ってしまった。所謂、土下座の格好である。 「すみませんすみません、ごめんなさい許してください」 「なんか、大丈夫じゃないみたいだな」 小笠原の苦笑混じりの呟きに焦ったポロシャツ達は、マエハラさんを宥めたりすかしたり、終いには背後から羽交い締めにして無理矢理起こそうと試みるが、彼は頑として立ち上がろうとしない。土下座をして謝り続けるマエハラサンに辟易した二人組は、顔を見合わせ首を横に振りながら言った。 「あの、こいつ駄目みたいなので、今日は僕達二人で歌います」 「え、でも」 早くしろとは言ったものの、この成り行きに戸惑っている高遠に、 「いえ僕達元々は、二人組のデュオなので」 「だけど“エメラルド”には三人で出るんだろ? この人も演らなきゃ、うちで練習する意味ないんじゃねぇの」 小笠原も同調する。 「まあ、それはそうなんですけど」 亀のように縮こまったマエハラサンを取り囲んで突っ立ったまま、いやでもと、少しも話が進まない男達。 すると年上の彼らの股の間を掻い潜って、晴と亮太がマエハラさんの身体を揺さぶり出した。 |