花眺メル 2

 実際松浦は、とても男らしい顔をしている。
 目は二重の切れ長で、鼻が高くて唇は薄く大きい。
 俳優かモデルさんになればいいんじゃないの? と思うくらい、男の僕が見ても文句のつけようがない顔なんだ。
 いつだったか、
「松浦って、誰に似たの?」
 って訊いたら、
「父親。できたらお祖父さんに似たかった」
 珍しく長い答えが返ってきた。
「ふーん。カッコいいお父さんでいいですね。お祖父さんも、別口のカッコいい人?」
「いや…… どうかな。格好いいとか、オレ良く分からないし」
 何とも余裕の答え。
 目は小さくもないけど大きくもなく、鼻も低くはないけど高くもなく、おまけに身長も平均値の至って平凡な僕には、羨ましい限りです。


「あのさ、今井」
 放課後帰る支度をしていると、松浦の方から僕に話しかけてきた。
「ん、何?」
 手を止めて訊き返したのに、いつまでたっても続きを言おうとしない松浦に僕はフゥーッと、ため息をつく。
 彼は見た目はホント、男らしいんだ。
 無口で無愛想であんまり笑わないし、何かあっても表情が殆ど変わらない。
 だから女子達は彼のことを『クールビューティー』と呼ぶ。
 だけど僕は知っている。
 彼の中身は他人に凄く気を使いすぎて、こんなこと言ったら気を悪くするかなーとか、どうやって言えば一番上手く伝わるかなーとか、グルグル考え込んで話ができない、いわゆるヘタレだということを。
「いいから言ってみなよ」
 しょうがないから、僕の方から続きを催促してやる。
「あ、ああ。あの…… 今井は今度の連休、何か予定はあるのか?」
「連休? んー、そうですね」
「あ、あるならいいんだ。ご、ごめん」

 いやいやいやいや。
 そこはよくないでしょ、松浦君。
 コイツに任せておくといつまでたっても話が進まないので、僕が理解したことを言わせて貰えば。

 松浦には、血の繋がらないお義兄さんがいる。
 お父さんが再婚した相手の人の、息子さんなんだそうだ。
 で、そのお義兄さんは、県立T高校の三年生だ。
 うちの中学からも毎年三分の一ほどの生徒が、T高校へ進学する。何を隠そう僕の姉ちゃんも、この学校の一年生だ。
 T高の文化祭は、毎年十一月の文化の日と決まっている。
 松浦のお義兄さんは中学の時からロックバンドを組んでいて、毎年この文化祭で演奏をしている。
 それで今年が高校生活最後の出演だから演目を派手目にしたいんだけど、今度の三連休に行う練習で裏方の仕事をする人手が足りない。
 お前の友達で手伝ってくれるヤツがいるなら連れてこいと、どうやら松浦はお義兄さんから頼まれたらしい。

「友達なんて、今井くらいしか思い浮かばなくて……」
 そうだよな。
 彼は見た目がこんなで、毎日女子達にキャーキャー騒がれているから近寄り難く、うちの中学の小市民的な男子達は彼を避けて通る。
 それに松浦も自分から積極的に話しかけるタイプじゃないから、そうか。友達と呼べるのは、僕だけなんだ。
 ここでハタと、思い当たったフシがある。
 今朝、松浦のご機嫌が妙に悪く見えたのは……




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!