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真っ暗で、からだが動かなくて。
とっても痛くて、すごく悲しかった。

だれかのてのひらがお腹の上を滑る。真冬の雪みたいにつめたいてのひらで、その指先はわたしの臍のラインを擽るように撫でていた。円を描くように動いたかとおもえば、からだのつくりを確かめるみたいに弱い力でぐっと押される。子宮のあたりを押されると、ちいさく呻き声をあげてしまう。
その一連の動作のもどかしさに身を揺すると、下半身からくちゅりと粘っこい音がした。わたしの股の間のちいさな穴に、棒状の何かが埋められているためだ。それが内側にあるだけで、ずくずくとした痛みと、痺れるような快感に襲われる。それが出入りすると、急にかなしくなって、辛いほどにいとおしくなる。感情がこわれそうになる。
手は縛られてて、目隠しもされているけれど、接合部からはとろりとした液体がぽたぽた滴っていることはわかった。わたしがどきどきしたり、えっちなことを考えるときに出てくる液体だった。わたしの意志とは反してからだは言うことをきいてくれないから死にたくなる。死んでも記憶をなくすだけだけど。消えたくなるというのが正しいかもしれない。でもきっとわたしは、まだ消えたくないんだと思う。
だから声を潜めて、ゆるゆると襲ってくる快感に耐えていると、つめたい指先はわたしの臍をなぞることをやめて、そっと頭を撫でてくれた。頭のてっぺんから髪の毛をからませて、指先から髪がすべてなくなるまで撫でてくれる。それを何度も何度も繰り返してくれた。

なんでかな、わからない。
おいしいものを食べすぎたあとみたいに吐き気がした。
だって、こんなに優しくわたしを撫でてもらったことなんてなかったから。
もしかしたら、忘れてしまっただけかもしれない。前にも、こんな風に撫でてもらっていたかもしれない。
でも、こんな撫で方をするのは、この世にこのひとぐらいしかいないと思った。
そう思ってしまった。

心臓の鼓動が速くなった気がした。おかしくなったのかと思った。だって、こんな状況で、誰ともわからないひととこんなことをして、恋をしているような錯覚に陥ってしまうなんて。
わたしはきっと、こんなことが前にもあったことを覚えてる。記憶にはないけれど、身体がちゃんと知っている。何度も何度もこのひとに掻き抱かれたこと。何度も何度もひどい方法で殺されたこと。

背中でつぶれているみずいろの雪が、わたしの体温で溶かされていく。
息を吐くだけで、わたしはまだ生きていられていることを実感する。




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