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電車
後ろから三両目、真ん中のドアからそいつは入ってくる。
その一つ後ろのドアにもたれかかっている俺の方をちらりと見て、いつものように入ってきたドアのすぐ脇に立った。

最初は…その流れるような金髪に目を奪われていただけだった。
向こうも俺の珍しい緑の髪(一応地毛だ。)を見て目を瞬かせていた。

その時俺は大学の入学式に行く途中でスーツを着ていた。
そいつもピシッと決まったスーツを着ていた。
次の日から私服となったのを見て、あいつも新一年生なのかな、と思った。

そいつはいつも俺の降りる一つ手前の駅で降りていく。
降りる直前、なんてことのない仕草の様に、俺の方向をちらりと見て…。
そして少しだけその顔を綻ばせ、電車を出ていく。
それ以外はずっと携帯をつまらなそうに眺めているそいつから送られる二度の視線…。


なぁ、目が合うのは…俺の気のせいなんかじゃないよな?


見事に咲いていた桜が散って、
蒸せるような暑さがたちこめるようになっても、、、
この説明出来ないような関係性は変わらなかった。

…そいつと会うのは月曜、水曜、木曜、金曜、土曜
講義の時間からか火曜と、大学自体がない日曜だけがそいつを見ない。

俺はだいっ嫌いだった電車が少し、好きになった。



ふぁ、とあくびをしながらいつもの電車に乗る。
いつもの場所に寄りかかり、あいつが入ってくるドアに視線を送る。

電車が止まり、、、入ってきたあいつは俺の方を見なかった。
代わりに、あいつと一緒に入ってきた水色の髪の女がこちらを見た。

ふんわりとウェーブのかかった柔らかそうな髪、
ぱっちりとした大きな目、
にっこりと、女にさほど興味がないゾロにも可愛い、とわかる笑顔で、、、
その女は楽しそうにあいつと話した。

電車の中で押さえられた声はゾロまで届かない。

しかし、サンジははにかみながら楽しそうにその女と言葉を交わしていた。

…ゾロが、まだ聞いたこともない声…。

何かが、壊れた気がした。

何も、見たくなくて…意味もなく流れる景色に目をやった。

どうでもいい落書きが、無性に気に触った。


…俺は…電車を変えることにした。


今まで使っていた電車よりも一本速い電車
寝起きの悪いゾロには起きる時間を早めることは苦行以外の何物でもなかったが、またあの光景を見るかもしれないと思えば何てことはなかった。

しかし、早起きの代償は講義中にくる。
うとうととしていると高校からの友人であるナミに揺り起こされた。
…寝ているのがバレると直ぐに成績を下げられる教授の授業だったので助かった。

授業が終わって直ぐ、ゾロはナミに話しかけられた。
礼も言わなければいけなかったので捕まっておく。

「…ねぇ、ゾロ。あんた何でこの頃そんなに眠そうなのよ?」

やはり、内容はこのことだった。
正直、話したくない。
ナミは鋭すぎて、自分でも分かっていないことまで言い当てられてしまいそうだ。

「…どうでもいいだろ。」

「…別にいいけどね。」

ナミはジト目で眺めた後、そう呟いた。

「…でも、友人のそんな顔、あたしだって見たくないのよ。」

呆れたように、労わるように、ナミはそう言った。
サンキュ、と色んなことを含めて礼を告げるとナミはにこっと笑った。

「お礼は学食の日替わり定食デザート付きでいいわよ♪」

…ま、いいか。



ーーーーー

続きます\(^o^)/

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