[携帯モード] [URL送信]

text onepiece 短編
魔獣に媚薬を飲ませる方法
久しぶりに上陸した港町。
オレンジ色に塗られた屋根の建物が多いその町の露天が並んで商売が盛んな地区から少し逸れた、治安がよろしいとは言えない酒屋で魔獣と呼ばれる麦わら海賊団の剣士、ロロノア・ゾロは酒を飲んでいた。
酒場はそれほど綺麗でもないし、古びた椅子は安物だからか少し小さくてギシギシと音を立てる。
しかしゾロはその酒場にとても満足していた。
それほど安くはない酒を水でも飲むかのように飲み干しせば無意識に口元が上がってしまう程度には機嫌も悪くなく、ジロジロと集まる視線に無駄に絡むこともせずに…いや、寧ろその視線の先に流し目をして小さく微笑んですら見せるくらいにはご機嫌であった。
グラスの中身を飲み干しても途切れることなく注がれる酒はその笑みに見惚れた人からの奢りだ。
ゾロが自分の金で頼んだのは最初の一杯だけである。

(たまにはこんなのも悪かねぇな)

つまみとして出されていたバケットに塗ってあったトマトソースは思っていたよりもハーブの香り付けや味付けがしっかりとしてあって、“あいつ”の料理に比べたら負けるがなかなか上手いとゾロは更に笑みを深めた。
噛んだ拍子にトマトソースが口の端にべとりと付いて、それをグラスの持っていない方の親指で拭って舐めれば周りから思わずといった声が上がる。
ゾロの周りには目にハートマークをはめ込んだかのような人々が集まっており、彼等はゾロの一挙一動に見惚れてはため息のような吐息を漏らし、ゾロのグラスが空になれば我先にとそこに酒を注いでいく。

そんな異様な光景を前に、酒場のマスターは困惑していた。

(どうしてこんなことになったのだろう…)

気が弱いそのマスターの胃はキリキリと痛んでは限界を告げている。
事の発端は今から数十分前のことである。
老若男女を侍らせて酒を飲む、緑色の青年がやってきたことから始まった。


そもそも、この酒場は普段からこれほどの客は来ない。
ならば何故今日は席が埋まってしまった上に立って酒を飲みはじめる人まで出てきてしまっているのかと言えば、カウンター席に座って飲み続ける隻眼の男が理由である。

マスターは“海賊狩り”のことを知らなかったけれど、彼が現れた時にざわりと聞こえた“ロロノア”という言葉で彼がそう呼ばれていて、姿だけで周囲がざわめき立つほどの人物だということを感じ取った。
彼はうす暗い酒場をぐるりと見渡し、空きの多かったカウンター席の真ん中にドカリと座ると一番安い酒を注文した。
肩肘を付いて体を傾けながら酒を口に運ぶその様子はなんとも妖艶なものがあり、店の至る所からごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
その時点で狭い酒場の席はロロノアと呼ばれる青年の左右の席だけを残して満席になっていたのだけれど、そこからもまた凄かった。
誰もが視線を向けるのに、牽制し合うかのように近寄らなかった彼に金髪の男が近付いたのだ。
身なりに気を遣っているであろうことが分かる、そこそこ整った顔の男はロロノアの右となりの席に腰かけると無遠慮にロロノアの非常に整った顔を眺め、不躾に言い放った。

「幾ら出せば抱かせる?」

ぴしり、と空気が固まった音というのをマスターは生まれて初めて聞いた気がした。
あいつ死んだな、なんて声が聞こえてきてしまい、人が死んだ店として客足が遠のく未来まで頭に浮かんだ。
ロロノアは気だるげに視線を上げ、金髪の男のことをちらりと見やると、その腰にある刀に手をかけると誰もが考えていた予想を裏切ってニヤリと笑ったのだ。

「金で抱かれる趣味はねぇ。…が、今日は気分が良いからな。上手い酒でも飲ませられて、酒に飲まれでもしたら…気付いたらベッド、なんてのもあるかもしれねぇよな。」

ペロリと上唇を舐めたその色気に当てられ我先にと酒の注文が入り、気付いたら立ち飲みまで出てくる始末だ。
次々と出される酒を飲んでいくロロノアは本当に酒が好きなのだろう。
甘いカクテルを渡された時は一瞬眉を寄せたが、それ以外は嬉しそうに飲み干していく。
度数が非常に高いはずの酒も、ロロノアを早く酔い潰したいと考える輩が少なからずいるおかげでもう両手の指の数以上は出したが、彼がつぶれる気配はおろか、顔に赤みが入ることすらない。
昨日が仕入れの日で良かったとマスターは安堵の溜息を吐いた。
酒の消費量は激しいがなんとかはなりそうで、血が流れないことはないと思っていたのに怒鳴り声の一つも上がることはなく、まぁつまりは客のほとんどがロロノアに見惚れているおかげでいつもより平和だったのだ。
だからマスターはつい、このまま満足して帰ってくれないかな、なんて淡い期待を持ってしまった。
それがいけなかったのだろうか。
そんなことを考えた直後に、カウンター席の一番隅で不審な動きをする男達を見つけてしまったのだ。
5人ほどでかたまった男達はひそひそと隠れるように提供した酒の入ったグラスに小さな小瓶の中身を注ぎ込む。
その小瓶の中身は合法的に許されたものではないのだろう。
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる男達に、やるなら他所でやってくれと怒鳴りたかった。
けれど、そんなことを言ったらどんなことをされるか分かったもんじゃないと気の弱いマスターはそれがロロノアの元に運ばれるのを涙目で見つめることしか出来なかった。




久しぶりに好き放題酒を飲んだゾロは非常にご機嫌だった。

(そろそろ“あいつ”に見つかるから適当に切り上げるか)

グラスに残っていた酒を飲みほして席を立とうとすれば、今まで酒を注いでいた奴らが残念そうな声を上げた。
だがゾロとて奢られたから何かをすると言った訳ではないし、向こうが勝手に奢ってきただけだ。
しかし、さっさと立ち去ろうとしたゾロの肩を掴んで止めたのはどこに居て何を奢られたかも覚えていない男だった。

「最後に一杯、あんなに奢ったんだからさ」

差し出された酒らしきものには何故か薄ピンク色がうっすらと付いていて、男の後ろでニヤニヤと様子を窺う男達や、おろおろと様子を窺う酒場の店主でゾロはこの男達が何かを仕込んだらしいと早々に気付いた。
毒か薬かどっちだろうかとゾロは一瞬考え、どっちにしろ死ぬようなもんは入ってないだろうと経験則で導き出した。
大体は体の動きを鈍らせて捕えようとしてくるのだ。
懸賞金は生死問わずだが、毒や薬でゾロを狙う様な奴はほとんどが懸賞金以上にゾロのその容姿を手に入れたいと考えるのだから。
だから、ゾロはあえてそのグラスを受け取った。
酒場のマスターが絶望したような顔で小さく首を横に振っている。
酒を手渡した男達のにやけ面が大きくなった。
グラスを口に運べば酒のはずのそれから甘ったるい香りがする。

(もったいないことしやがって)

ゾロ!と離れた場所から呼ばれた気がした。
グラスの中身を一息に飲み干せば、一瞬体が熱くなる。
どうやら盛られたのは媚薬だったらしい。
…が、深く息を吐き出せばその熱も収まる。
期待していたようなニヤケ面をジロリと睨めばグラスを差し出した男が怯…んだと思った瞬間に飛んでいった。

「ゾロ、おいてめぇ俺は買い出しをしてる間一杯だけ飲んでて良いって言ったよな。一杯分の金を渡したよな。」

男を飛ばしたのは男にしては長めとも言える金髪をくしゃりと乱れさせたスーツの男、麦わら海賊団のコックであるサンジだった。
不機嫌そうにブツブツと呟くサンジはゾロから視線を外さずに残った四人を蹴り飛ばした。
首謀者と思わしき者を一人残らず蹴り飛ばす様子からして少し前から見ていたのであろう。
ゾロはピクリとも表情を変えずに悪かったと呟いた。 
反省の色など少しも見えないその謝罪をじいっと見つめたサンジは不機嫌そうな顔はそのままに顎で外をしゃくった。

「騒がせて悪かったな。」

ガクガクと震える哀れな店主に安酒一杯分の金を手渡したゾロは、すでに店から出ていったサンジの後を追う。
店からすぐの場所でサンジに追いついたゾロは荷物は?と尋ねた。
俺はまだ怒ってるぞ、とばかりにジロリと睨んだサンジがそれでも答える。

「船まで運んでくれるって言うから頼んだ。」

潮っぽい香りがする風が吹く。
サンジの金髪がさらりとなびいた。
船番は?とゾロは再び聞いた。

「お前…今日の船番はウソップとフランキーって降りる前に言われただろ。聞いてなかったのかよ。」

呆れたように言われ、ゾロは心の中でよし、と呟いた。

「じゃあいいか。」

何が?とサンジが聞き返す前にその腕を掴んで脇の細道に引きずり込んだ。
うぉっ!?と裏返った声が上がるが知ったこっちゃない。
表の通りから見えにくいところまでサンジを引きずり、くるりと反転したゾロの顔はそれまでの無表情から一転していた。
はぁ、と乱れる息に顔と言わず首元まで赤く染まった肌。
サンジはやっぱり盛られてやがったか、舌打ち混じりに呟いた。
サンジの首筋に顔を埋めてその匂いを嗅げば今まで抑えられていた熱が一気に高まる。
乱れる息に邪魔されながら挿れろ、と告げるがサンジにベリっと剥がされた。

「宿近いからそこまで我慢しろ。」

今まで我慢できてたんだから宿まで持つだろ、なんて言われてゾロはむっと不満そうな顔をした。
確かに我慢しようとしたらできる。でも…

「てめぇと二人の時は我慢なんて出来ねぇようにしやがったのはどいつだと思ってんだ。」

サンジの顔がぽかんと間抜け面を晒す。
それから、徐々に口元が上がっていった。
どうやら機嫌は治ったらしい。

「あー…止めろって言われても止めねぇからな。」

上等だ、と返して噛み付くようなキスをした。
何度かその唇を味わって、サンジの瞳を見つめればその海のような青色に衣服を乱されたゾロの姿が映っていた。
突然動きを止めたゾロにサンジが小さくて首を傾げた。

(その瞳に他のものを映さなくなれば良いなんて思って飲んだなんて言ったらきっと怒るな。)

何でもねぇ、と再びキスをして先を強請ればサンジは一度キスを落として動きを止めた。

「放っておいて悪かった。」

困ったような顔でそう告げて、今度こそサンジは止まることは無かった。
結局路地裏で二回、サンジがとっていた宿で三回させられたゾロは最後意識を飛ばした。
次の日、ズキズキと痛む体を起こしたゾロは、ふわりと宿のキッチンから香るサンジの料理の匂いにぐぅとお腹を鳴らし、昨日あれだけやったのに朝から料理とかあいつはバケモノかと若干引いた。



[*前へ][次へ#]

34/35ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!